断片の物置、跡地

記憶の断片が散乱するがらくた置き場

理性と衝動

 一般的にプレイヤーは敗北を嫌うし、出来る限り理知的な判断を下そうとします。
 高い難易度のシナリオを乗り越えるために、あるいはキャラクターが死んでゲームから排斥される可能性を避けんとするがために、これらの傾向は役立ちます。
 ところが、プレイヤー主導でストーリーが展開するタイプのRPGにおいて、これらは時に邪魔っ気です。一直線で安定した物語よりも、紆余曲折の波瀾溢れる物語の方がプレイする面白さに満ちているからです。
 それに、キャラクターへの没頭に起因する行動がセッションを動かす瞬間は、RPGでしか味わえない楽しみをもたらしてくれます。状況解決に最適化された行動は、RPGを楽しむ上での最善策とは限らないのです。
 かといって、常に感情にまかせた衝動的な行動をプレイヤー・キャラクターに取らせるのでは、セッションそのものが破綻しかねません。


 ルール面から、波瀾を取り入れようとする試みは幾度も行われてきました。
 例えば、クトゥルフの正気度判定、ペンドラゴンの感情、ヴァンパイアの狂乱などは、プレイヤーの意図しない事故をPCによって引き起こさせるルールです。
 また、スペオペヒーローズのネガティブ・ヒーローポイント、トーキョーN◎VAのプレイヤーが使うカードを選ぶなどは、今の失敗で将来の成功を貯蓄させるルールと言えるでしょう。
 シーン制ルールを、ピンチの演出や、感情的なモチベーションを高めるのに用いるケースも、ここに当てはまるといえます。
 米国インディ系のRPGでは、プレイヤーに結果や過程を選択させることで、プレイヤーの意志とGMの意図を噛み合わせて、思いがけない状況を発生させるタイプのものがいくつかあり、個人的には注目しています。


 唐突ですが、ディセントというボードゲームがあります。
 タイルを組み合わせて作られたダンジョンを踏破する形のゲームであり、最大4人までの英雄と、モンスターや罠を操る一人のオーバーロードに分かれて戦います。TRPGボードゲームの中間的な遊びと評されることもあるようですね。
 このゲーム、英雄側の状況に合わせた最適行動がかなり明確に存在します。そして、割とギリギリのバランスで組んであるマップもいくつか存在し、考え得る限りの最善策をとっても、ダイス運で勝てなかったりすることも起こりえます。
 慣れたプレイヤーの操る英雄たちの動きは「こいつら冒険者じゃねえ、訓練された軍隊だ・・・」とサークルで話のネタにされるぐらいです。
 そうなってくると、慣れないプレイヤーが混ざるよりは、慣れたプレイヤーが複数のキャラクターを操る方が、勝利への近道となってしまいます。


 RPGは確かにゲームですが、そのGが意味するところは、ボードゲームのそれとはニュアンスが異なると僕は考えています。
 理性ばかりでなく、衝動もまた、楽しみを増やしてくれるからです。