断片の物置、跡地

記憶の断片が散乱するがらくた置き場

S7Sのルール的特徴

 気分転換にさくっと。
 僕がS7Sを気に入った理由は、世界観とルールが半々ぐらいです。そもそも、S7Sに手を出した理由は、妖精物語を遊ぶシステムThe Zorcerer of ZoからPDQというシステムに興味を抱いたからだったりします。デザイナーが同じ人で、そもそもPDQを作成した人だったというのは後から気がつきました。高名なるネタRPG、Ninja Burgerのデザイナーとは別人で、NBの2ndは既に存在したPDQを利用する形で作られています。
 PDQはProse Descriptive Qualitiesの略であり、基本的な特徴はその名の通り、キャラクターの能力を単語やフレーズで作るところにあります。ヒーローウォーズとよく似たコンセプトですね。ルールの基礎は特性値の修正に2D6を加えるだけという、非常に簡素な作りです。荒いところはあるものの、ストーリーを指向するシステムとして興味深い工夫(ヒーローポイントまわりとストーリー・フック)がなされていたのが印象的でした。
 S7Sで使われているPDQ#はその新バージョンとでも言うべきシステムで、アクションシーンを扱うルールの変更や技巧の導入などにより、システムの完成度が上がっています。しかし、個人的に強く惹かれたのは、プレイヤーから物語への関与を引き出す様々な工夫でした。これがどのように機能するのか是非見てみたい。それが、リファレンスを作り始めたそもそもの動機です。
 特にスタイル・ダイス(このゲームにおけるヒーローポイント)周辺の整備が秀逸なのです。そこだけ、ざっと紹介いたします。


・スタイル・ダイスの獲得
 スタイル・ダイスは、演技や行動で卓を囲んでいる他プレイヤーやGMを楽しませることにより補填されます。ここまではよくあります。しかし、確実に得られるのは、「PCが判定に失敗した際、どのようにして失敗したのかプレイヤーが描写」した時です。この工夫は、確実にプレイヤーを物語り世界に参加させる、というだけには止まりません。新たなプロットの種が蒔かれる可能性だってあるのです。
 例えば判定に失敗して賭博で負けたとしましょう。プレイヤーが「運がなかっただけだよ」というのと「横で際どいダンスを踊っている女性に目がいって集中できなかった」というのと「相手がいかさまをしていた」というのとでは、それに続く展開がかなり違うはずです。GMも物語を展開する糸口を見つけやすくなるでしょう。
 また、全てのPCは「欠点(Foibleなので、愛嬌のある欠点とか奇癖の方が正確かも)」を持っているいます。例えば「復讐」「〜に愛を捧げている」「片目が醜く潰されている」「好色」「〜への忠誠心」などです。複数のフレーズを持った複雑なものにすることも可能です。これが刺激される状況が発生した場合もまた、スタイル・ダイス一個がもたらされるのです。若干珍しいけど、これまでにもあったアイデアです。
 ところが欠点が表出しそうなこの状況をどう展開するのか、プレイヤーが描写してかまいません。何とか耐えて隠しおおせたことにしていいのです。しかし、それが大きなトラブルに発展したり、思いもかけない事態を呼び込んだ語りを行い、他プレイヤーやGMを楽しませたら2、3のスタイル・ダイスが追加でもらえるのです!
 このルールを世界設定と結びつけた部分もあります。
 S7Sの世界にはコルドゥン(Koldun)という魔法使いがいます。幻獣に例えられる力を複数使いこなし、錬金術や呪いにも通じている存在です。彼らは、精神的であれ肉体的であれ、特殊な「欠点」を持つことが奨励されています。謎めいた回りくどい喋り方しかしなかったり、瞳が金属になっていたり、決して消えることのない硫黄の臭いをまとわりつかせていたり、静寂のオーラをまとっていたり、音楽を聞くだけで泥酔したり・・・というのが例としてあげられています。
 当然、このように目立つ欠点は、コルドゥンのPCにトラブルとスタイル・ダイスをもたらします。そして、より大きな魔法の力を使いこなすには、スタイル・ダイスを消費する必要があるのです。こうして、魔法使いらしい怪しげな言動と、力の発現が、さほど無理のない形で再現されます。


・スタイル・ダイスの利用
 スタイル・ダイスは、よくあるヒーローポイントのように、判定の達成値を引き上げる使い方もできます。
 しかし、真骨頂は「世界を創り出す(Creat the World)」効果です。
 文字通り、手がかりなどをプレイヤーが創り出す効果を持ちます。例えば「(情報を持つNPCである)かの貴婦人とは、かつて火遊びのお相手をいたしたことがありましてね」とか「(砦に入り込む方法を探しているときに)あの砦は難攻不落といわれているが、建設時に忘れられた地下下水道があるのだよ。くくっ」とかできちゃうのです。創り出した事実の大きさによって、消費されるスタイル・ダイスの数が変化しますし、当然GMが調整を加えてもかまいません(「地下下水道は見つかったけど、崩れかかっている上に、迷路みたいに複雑な構造だね。さて、どうやって通り抜ける?」など)。
 前述のコルドゥンの魔法も、この「世界を創り出す」効果を神秘の技に乗せて発揮するので、よりフレキシブルでぶっ飛んだ事実を創り出せます。キャラクター・シートには一応分けて書いてありますが、世界を変化させるという視点からは同じものです。
 更に、「NPCを創り出す」こともできちゃいます。このゲームの能力値とも言える「長所」の設定も自由に行えます。もちろん、有能な人物にしようとすればよりコストがかさみます。とはいえ、別PCもダイスを供出できる仕組みなので、状況を打開する助けになるNPC(犯罪組織とのコネが必要な時に、PCの顔なじみに地元組織の幹部を設定して、情報通の長所を与えるなど)を作り出すのは比較的容易と思われます。どんな長所を追加あるいは伸ばすのかは、ダイスを出したプレイヤーが決定するため、当初の予定とは全く違った人物になることもあるでしょう。それもシステム上の狙いでしょうけどね。
 同じように、「一時的な」名声や財産を作り出すことも出来ます。


 これが、実ゲームでどの程度機能するかは未知数です。フォーラムに目を通している限りは、うまくいっているようですが、実際に試さないと感覚的に分からないことが幾つかありますので。破天荒になりすぎはしないかという心配も、ほんの僅かにあります。ただ、こういったシステムと世界設定は、僕には非常に魅力的に映り、原書を読んでリファレンスを作成する労力を払ってでも、遊んでみる価値は十分にあると思いました。
 そんなわけで、土曜に投入予定。
 成功しようが失敗しようが、とりあえずレポートはあげる予定です。