断片の物置、跡地

記憶の断片が散乱するがらくた置き場

Kickstarter悲喜こもごも

 ここ一年でインディ系TRPG界にすっかり定着した感のある、資金募集プロジェクト形式。
 White Wolf社がV:tMの20周年記念版コンパニオンの予約に利用するなど、この動きは今後も、中小の出版元に広がっていくのではないかと予想されます。
 同系列のサービスはいくつか存在しますが、TRPGに関しては、現状Kickstarter(プロジェクトをはじめられるのは合衆国民限定)とIndieGoGo(国による制限なし)が二強。
 機能面はほぼ同じですが、Kickstarterは投入した資金を後から変更できる(amazon.comと連携しているため)ので、使い勝手はいい感じです。
Kickstarterに関しては、このサイトをチェックしておけば、TRPG関連プロジェクトを見逃すことはないかと思われます。


 では、資金募集プロジェクトの利点はどこにあるのでしょう?
 プロジェクト開始側からは、次のようなものが考えられます。

  • 印刷などに用いる、基礎的な運転資金を押さえることができる
  • 編集者、イラストレーターなどを雇用する費用を確保できる
  • 人気によってはプロジェクトの規模を伸張できる柔軟性

 一方ユーザー側からすると、

  • いち早くお目当ての品を入手できる
  • 限定特典を手にすることができるという喜び

 がありがたい限り。


 特に、限定版に弱いのは、洋の東西を問わないようで。
 プロジェクトが最初の目標金額を達成したなら、開始側は新たなマイルストーンを設定して、そこに至ったときは新たな特典が追加されるという様式が定着しています。
 ユーザーはその特典ほしさに、自分の投入額を引き上げたり、フォーラムやブログで他者を巻き込もうとするわけです。
 この連鎖により、プロジェクト資金が劇的に膨れあがることもあります。最近だと、レゴ・ウォーゲームMobile Frame Zeroが、元々の目標額が9千ドルだったのにも関わらず、人気ブログなどで紹介されるに至りとうとう5万ドルを越えたことが実例としてあげられるでしょう。
 この相乗作用に加えて、コメント機能などを通して、デザイナーとユーザーが双方向的なやりとりで触れ合えることは、インディ系の気質にぴったりです。
 基本的に損する人はいない、win-winなシステムと言えましょう。


 逆にデメリットも存在します。
 主にユーザーサイドの話ですが・・・(開始側は成立した時点で資金を入手できるので、計画性のない赤字プロジェクトでもない限り、損失はないと推測される)

  • 内容やクオリティが期待した水準に達しないリスクを伴う
  • 閉め切った後、長期に渡って連絡がないことがたまにある
  • 特にプリント版の出荷は、遅延する傾向が見られる
  • プロジェクトを見逃してしまい、切望する品が手に入らない
  • それを恐れた結果、多くのプロジェクトにつばをつけてしまい、お金を使いすぎたり、読み切れなかったりする

 ・・・ほとんど実体験です!
 一番悲しいのはプロジェクトの見逃し。
 出版される見込みがあり、単に特典を得られないだけならまだしも、資金提供者限定の頒布だったりすると目もあてられません。あるいは、資金提供ユーザーには配布されているのに、正式リリースの目処は立っていないケースも悲しいです。
 上記Void Vulturesが正に前者のケース。クトゥルフ神話ネタ宇宙SFのEldritch Skiesは後者のケースであり、欲しいのに手出し出来ず、涙で枕をぬらしております。


 今後も、資金募集プロジェクトによるTRPGリリースは増えていくことが、予想に難くありません。
 海の向こうにおけるTRPG関係のライター数は、日本の比ではないほど多いと思われますが、これまでは出版社にフリーライターとして雇われるか、リスクの伴う自費出版ぐらいしか世に出る機会がありませんでした。
 自費出版、すなわち自前で全て準備する同人誌スタイルだと、レイアウト、文章構成、イラストなどが素人くさいため、そもそも手にとってもらえないことすら多かったと思われます。
 しかし、Kickstarterなどの普及により、状況は一変しようとしています。
 集まった資金を費やして、編集者、校正人、レイアウト・デザイナー、イラストレーターなどを雇うことで、大手と遜色のない質の製品を作成することが可能だからです。
 そうなると、WotCのような超大手を除いた出版元の境目は、さらに薄れていくのではないかと推測されるのです。
 同時に、ユーザーにとっては、現在以上の玉石混淆な未来が待っていることをも意味します。また、デザイナー買いなどで、潤いを享受できる層が限られる可能性も捨てきれません。
 それでも、資金募集プロジェクトの垣間見せてくれる未来に、そのポテンシャルに、期待に胸を膨らませざる得ないのです。
 より良き限定特典を求めるマニア心と共に・・・。