断片の物置、跡地

記憶の断片が散乱するがらくた置き場

三行の彼方に(1)

 アドリブ中心シナリオでセッションを回す場合に注意していることなどを、何回かに渡ってまとめてみます。

はじめに

 近頃、新人さんGMのセッションに参加したり、少し長めにお話しする機会などをいただいたりしました。それらを通して、準備したシナリオに囚われすぎているのではないか、と感じるに至りました。


「GMはプレイヤーに合わせて、シナリオを解体再構築してもよいのです」
 と、僕は常日頃から口に出してしまうスタイルのGMです。
 ただ、「誰にでも出来るわけじゃないんです」とのツッコミは受けますし、ベテランのGMであっても「アドリブメインで遊んだら失敗した」という話を時々耳にします。


 指摘されたとおり、アドリブは万能ではありません。
 適性の有無や、本人や参加者のプレイスタイル、シナリオのタイプ、用いるシステムなどによっては、プレイヤー任せの展開が機能しないことは起こりえます。
 とはいえ、即興的にシナリオを手直しする手法を身につけておいて損することはありません。初心者GMの方々にとっては特に。
 なので、自分がアドリブ主体で遊ぶ場合の留意点をこれからあげていくことにします。
 手慣れた方々にとっては当たり前のことを得々と語るように映るかもしれませんが、ご容赦くださいまし。

三行革命時代

 僕が現役の頃、シナリオ紹介で希に次のような言葉が口にされました。
「シナリオに書き出されているのは三行ですが、頭の中には百万行があります」
 また、変奏として次のような紹介もありました。こちらは今日でも時々使われています。
「このシナリオには無限の可能性があります!」


 これらは僕が口にしたものではありません。こんな如才ないことをとっさに言えるほど頭が回らないので。が、あまり書き出すタイプのGMではなく、また深淵のように即興に重きを置くシステムをGMすることがほとんどだったため、僕は三行革命(シナリオへのアウトプットが少なく、本編はプレイヤー任せで進行する)GMにカテゴライズされていました。


 もちろん、これらの紹介は「いいわけ」に過ぎません。
 本来はじっくり作り込んでくることが奨励されていたサークルです。ところが、僕が入る一つ前あたりから、サークルは大所帯と化しており、シナリオを行き渡らせるためにはそうも言っていられない現実がありました。
 中には2回生、3回生で年間40本オーバーという奮闘をされるGMもおられたぐらいです。
 当然の帰結として、再利用と作り込まれていないシナリオが例会に持ち込まれる率が増加しました。肝心の時間が不足していては、いたしかたのないことです。


 僕は一番働くべき回生の時も、年間せいぜい10本程度しかGMしない参加者でした。
 それなのにシナリオは紙ペラ一枚のアドリブが多いのです。ホント、困ったことに。
 その割りには、プレイヤーに恵まれていたおかげで、ぱっと見は上手く回っていることが多いように映ったようです。だから、三行(短い)シナリオをその場で展開する、アドリブのみのスタイルと見なされたのも当たり前でしょう。

三行シナリオが回る条件

 僕がRPGにおいて、ある程度口が回ったのは確かでしょう。
 かといって、言語的な反射神経に優れていたわけでは決してありません。今でもそれは変わらないでしょう。
 僕が現役の頃は、しゃべくりや演技に重きを置くシステムが出始めから最初の全盛期に至るあたりであり、会話が信じられないぐらい巧みな方も何人かおられました。それこそ僕なんかと比べると失礼なレベルで。そんな人々が作り込んだシナリオを持ってこられる訳ですから、僕のGMスタイルは本来なら批判されても申し開きのできないものでした。
 今思うと危うくも成り立っていたのは、幸運にもアドリブ中心シナリオが回る素地が存在したからでしょう。短いアウトプットでセッションを運用するために必要なのは、次のようなものです。

1.世界の共有
 セッションの舞台となっている世界の雰囲気を、プレイヤーの過半数が認識していること。
 詳細な世界観を持つRPG(いわゆる第二世代)がまだまだ入手可能な頃であり、システムの世界を積極的に知ろうとするプレイヤーが多かった。
 そのため、PCの行動がGMに追跡しやすく、破綻を来たすのを回避しやすかった。


2.プレイヤーの応対
 GMより上手く遊びに熟練したプレイヤーが支えてくれた。
 プレイヤーとのやりとりを通じて、詳細を彩り、展開に論理的整合性を持たせることが可能となるため。
 また、PC同士で絡むことにより、セッションを作り上げてくれた。


3.三行の裏側
 で、実際に三行しか準備していないわけがない。
 書き出されたものは最小限でも、シナリオのパーツは頭の中で何度も反芻している。
 この頃は特にイメージを重視していた記憶。びっくりさせる、あるいはおもしろがらせるような光景に直面すれば、PCは何らかの行動を起こすことが多い。


 GMとしての仕事は、セッションの全体像を把握することに尽きました。
 例えば深淵の場合、運命やPC設定がセッションで発生した出来事に、ぴたりと合致することがあります。そういった偶然の糸を絡ませ、プレイヤーに認識できるようにしたのです。
 あとは、PCあるいはプレイヤーの興味をいかに惹きつけられるか。それが勝負所でした。


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 とりあえずこんなところで。
 実用性が低いので、次回からはもう少し実例などを交えて行ければと思います。
 次は『NPCを目的達成の道具にしない』あたりからかな?
 いつもながら気が向いたときにざざっと書きます。何かご質問などございましたらお気軽に〜。