断片の物置、跡地

記憶の断片が散乱するがらくた置き場

すばらしき時代

 僅かに目を通して、ほったらかしにしていたIn a Wicked Ageを流し読み。
 GM+3〜4人のプレイヤーで、荒々しさと残酷さを兼備する幻想的な物語を創り出す、ストーリー・ゲームです。デザイナーはDogs in the Vineyardと同じ方。
 直接イメージに関わる作品として、タニス・リーの『平たい地球』シリーズ(全巻邦訳あり・・・でも1巻以外は絶版)、ジャック・ヴァンスのLyoness三部作(邦訳無し・・・涙)、ロバート・E・ハワードの『蛮人コナン』シリーズ、ラドヤード・キップリングの『ジャングル・ブック』があげられています。
 個人的な感想は、深淵の渦型シナリオに近い感覚のゲームです。キャラクターは紡がれる物語と密接な存在であり、行動の処理は非常に抽象的です。なお、GMの事前準備は一切いりません。


 ゲームの流れは次の通りです。

  1. 物語のオラクルを選ぶ
    • 「血と性(Blood & Sex)」「戦の神王(God-kings of War)」「不穏な過去(the Unquiet Past)」「毒蛇の巣(a Nest of Vipers)」の4種類からオラクルを選ぶ。セッションで遊ぶ物語の雰囲気がこれで決まる。
  2. 物語の要素を決定する
    • 4枚のトランプを引く。選択したオラクルの該当する一文を書き留める。これがセッションに用いられる物語の基本要素となる。
  3. 登場人物を考える
    • 4つの文から、登場人物を探して書き出す。明記されている人物だけでなく、関係者を勝手に作ってもよい。また、複数の要素を一つの人物に絞ってもよい。一章(1セッション)あたり、6〜10人の登場人物が妥当とされる。
  4. PCを選ぶ
    • 登場人物の中から、プレイヤーが一人1キャラを選択する。残りはNPCとなる。
  5. 名前の決定
    • 登場人物に名前を付ける。それっぽい名前リストあり。
  6. 形態(Form)の決定
    • PCは6つのFormに決められたダイスを割り当てる。Formは「ひそやかな行い(covertly)」「直接的な行い(directly)」「自分への行い(for myself)」「他者への行い(for others)」「愛を含む行い(with love)」「暴力を含む行い(with violence)」という抽象的な6種。NPCのFormは「動作的な行い(action)」「技巧的な行い(maneuvering)」「自分を守る行い(self-protection)」の3種で、ダイスの割り振りはGMが決定する。
  7. 際だった力(particular strength)の決定
    • PCとNPCは各々一つの「際だった力」を持つ。これは一般的ではない技能や、魔法の業、生来の力、仲間、あるいは所持する宝などを指す。その物語に存在することが妥当と思われるものなら、自由に決めてかまわない。力が属するFormと、重要性(Significance)という力の特徴を1つずつ選択する。
  8. 最善の利益(best interests)の決定
    • PCは2つのbest interestsを決めなくてはならない。これはセッションにおけるキャラクターの目的となる。物語の要素や、ここまでに浮上した設定に関係するものが妥当。登場人物(PCおよびNPC)の一人に対し、best interestsを向けるのもよい。NPCに関しては、最も重要なNPCのもつ2つはGMが決め、その他のNPCはプレイヤーが1つか2つを考えて与える。NPCのbest interestsは必ずPCに向けられているものでなくてはならない。
  9. 背景設定の掘り起こし
    • GMは詳細な設定を決める必要はないし、物語の構成を決めてかかってはいけない。ここまでの設定から浮かび上がる要素を集め、登場人物たちの置かれている状況を考えること。この時点で、簡単には解きほぐせず、良くない方向に転がる状況ができあがるだろう。
  10. シーンの提示
    • ここからセッション開始。シーンを決め、PCとそれに関係するNPCの行動を処理していく。描写は、PCの行動に関してはプレイヤー、周囲の状況とNPCに関してはGMに任される。
  11. コンフリクトの発生
    • コンフリクトは他の登場人物の関係する行動や、他者の行動の妨害時に発生する。基本的に相手を害する行動となる。話あっている途中や、妨害が生じない行動にはコンフリクトが発生しない。
  12. コンフリクトの解決
    • 行動に関連するForm二つのダイスを足して振る。際だった力が使える状況なら、そのダイスも加える。行動とそれに対する反応を描写しながら積み重ねていくこととなる。途中で、有利な状況が生じれば、1D6が加算される。コンフリクト処理は最長でも3ラウンドで決着がつく。敗れた側は、疲労か負傷を受けてFormのダイスが減少する。これはセッションの終了まで回復しない。なお、コンフリクトの中途、あるいは終了時に相手と交渉を行い、両者が合意すれば減少するFormを変えたり、Formの代わりに状況的な制限を課したりすることもできる。
  13. 借り
    • 相手よりも不利なダイスで、1ラウンド目を優位に進めたPCは、借りリスト(Owe List)に名前が記載される。これは続くセッションに、そのキャラクターが登場できるかに関係する。また、リストから名前を消すことで、コンフリクト時に有利な修正を得ることもできる。
  14. 章の終了
    • 大部分のキャラクターのbest interestsが(結果はどうあれ)解決する、あるいはその章における明らかな主人公が浮かび上がり、その人物のbest interestsが解決すれば、セッションは終了となる。十分な時間遊んだか、次回に続くクリフハンガーな状況ができあがる、あるいは単に時間切れになったら、そこで終わらせてもよい。
  15. 次章(次のセッション)
    • オラクルを再度選択して、3枚のトランプを引く。借りリストのトップに名前のあるPCは、次の章に継続して現れる。トップでなくても、名前が借りリストに記載されているPCは、名前を消すことで登場することができる。他のキャラクターは新たにもたらされた物語の要素から、最初と同様の手順で作成する。次の章は必ずしも時間的に連続している必要はない。先の章で登場したキャラクターの過去や遙かな未来を語るものであってもよいのだ。
  16. 再登場したPCと第三章
    • 再登場したPCは、Formを再度割り振る(唯一の回復方法でもある)。際だった力の数が増えたり、その重要性が増えたりする。第3章に新たに登場するキャラクターは最初から重要性を2つ持つ。また、第三章はGMを交代してもよい。


 だいたいこんなゲームの構成です。
 一般的なTRPGっぽさがほとんどありませんな。単発でも遊べるけど、3章以上遊ぶのがお勧めとのことです。
 物語の要素に関して、イメージが沸きにくいかもしれないので、試しに1回引いてみましょう。公式ページにトランプと表いらずのオラクルが設置されているので、ルールを持っていなくても頭の体操的に遊べます。今回はBlood & Sexで。訳はかなりテキトー。

3D: A raving prophet, advocating self-mortification and deprivation of the appetites.
(狂える預言者が、禁欲と、欲望の根絶を主張する。)
JC: The death of the primary heir of a local noblewoman.
(地元の女貴族の、第一後継者の死。)
1S: A field of herbs and wild flowers, alive with bees, where a certain half-bestial creature brings his many lovers.
(薬草と野生の草花が繁茂し、蜂が飛び回る野原。そこはかの半獣の生物が、彼の数多い恋人達を連れ込む場所。)
4H: The night each year that a certain ghost is allowed her freedom
(かの女性の亡霊が自由を与えられる、年に一度の夜。)

 要素が出そろったので、次は登場人物を考えます。キーワードに表出しているのは「禁欲を訴える狂気の預言者」「地元の女貴族」「その後継者」「サテュロスのごとき恋多き半獣人」「半獣人の恋人たち」「普段は封じられている亡霊」あたり。参加者で話し合って、これに関連要素を加えたり、要素の寄り合わせを行ったりします。例えば、「預言者の弟子」「女貴族の若いツバメ」「重要ではなかった後継者」「花々の精霊」「半獣人に妻を寝取られた商人」「亡霊を封じた老人」とか。要素の関連づけは「半獣人の愛の巣で殺される貴族の第一後継者」とか「狂える預言者は、女性の亡霊を使う」とかあたりでしょうか。多人数でやればもっと多くの可能性が広がるでしょう。
 登場人物の有り様に沿った際だった力を考えましょう。半獣人は「聞くものの理性を奪う角笛」を持っているかもしれませんし、女貴族は「屈強な私兵」を従えているかもしれませんし、「腐敗の魔術」に通じているかもしれません。さらに最善の利益とその向かう先を決めていけば、彼らの前に広がる物語がおぼろげに姿を現し、お互いの関係も判明していきます。始まりは4つの文に過ぎませんが、それを触媒として、参加者の中にある物語を引き出し、複合していくのがこのシステムの真骨頂なのです。
 ここから先は、実際に遊んでみないと分からないので保留。がっつり遊びたいのなら、参加者にある程度共通した土台が必要な気が、そこはかとなくします。また、オラクルさえ準備すれば、幻想性の強いファンタジーに限らず、多様な物語を遊ぶこともできるようですね。
 案外オンライン・セッションとかで、同好の士を集めてじっくりやるのに向いている気も。