断片の物置、跡地

記憶の断片が散乱するがらくた置き場

Lady Blackbirdの私的GMガイド

 レディ・ブラックバードは、プレイヤーの供給する材料を利用しつつ、即興的にセッションを組み立てていくRPGです。理屈の上では、どのような展開にもなりえます。なので、プレイヤーたちが望む方向に常に注意を払い、行く手に興味深い障害を設置していくことがGMの役割となります。


 僕自身は、それまでのメインシステムが深淵であったこと(2008年度は11回GMしている)もあり、何をするゲームなのかは比較的楽にのみこめた方だと思います。それでも実運用するまで、このシステムが想定通り機能するのか、確信が持てませんでした。


 確信を持てなかった理由の一つは、このシステムが割り切り過ぎていたからです。
 例えば、レディ・ブラックバードにおいて、GMは一切ダイスを振りません。また、スタート時点の状況からして、戦闘的な状況の発生は明らかであるにも関わらず、混戦になった場合の処理順などは全く定められていないのです。それどころかNPCをどのようにすれば打ち倒せるのかすら明確な記述は存在しません。背景世界も、イメージ先行で、実質穴だらけに見えることでしょう。
 一見GM裁量が大きく取られたルールに見え、解説も最小限なのが不安を強めました。
 実際、起こりうる状況を概ねカバーするシステムが備え付けられている一般的なRPGからは、頭を切り換えてGMしなくてはなりません。


 なので、自分がレディ・ブラックバードをGMした経験に基づき、ポイントと考えられる箇所を簡単に書き出してみることにします。拙く本体に同梱されている『ゲームの運用』の項と被っていたりもしますが、何らかのヒントにはなれば幸いです。
#私的解釈なので、デザイナーの意図をきっちり反映できているとは限りませんが

プレイヤーに質問を投げかける

 このゲームにおける情報不足は意図されたものです。
 隙間を埋めさせることによって、参加者のイメージを引き出すことこそが、ルールの肝なのです。
 キャラクターの特徴、鍵、秘密、世界の地図、イラスト、概要などから、世界観の重要な点がいくつか見えてくると思います。それら点の間に自由に線を引いて結びつけ、セッションごとの世界を豊かに積み上げていくことが、Lady Blackbirdの基本的な遊び方です。


 この解釈を行う主体をGMに置いてはなりません。
 プレイヤーにパズルのピースを供給させるのです。
 各PCは一行だけの簡単な設定と特徴の数々を持つものの、多くの側面をプレイヤーの自由な解釈に任せています。例えば「レディ・ブラックバードは海賊の王とどのような関係にあったのか?」「サイラス・ヴァンスは何故、帝国軍を辞めたのか?」などがそうです。
 事前設定を詳細に作らせることはせずに、セッションを通して設定の隙間を埋めさせてください。
 自分のセッションだと、ナターシャに双子の姉妹が存在したこともあるし、サイラスが海賊船を沈めるために自軍を巻き込む砲撃を行い帝国軍を放逐された過去を持っていたこともあります。
 普通GM一人の想像力なんて所詮知れたものです。プレイヤーたちの発想は、容易にそれを乗り越えていきます。一つの思いつきは、連鎖的に参加者全員に影響して、きっとさらなる広がりを見せてくれるでしょう。


 プレイヤーからアイデアを引き出す一歩目は、GMが質問を投げかけていくことです。
 最初に、拘禁室にどのような形で拘束されているのか、プレイヤーに聞いてみるのもよいでしょう。プレイヤーの抱いているイメージを吐き出させるか、即興的に作らせることによって、場が共有するフィクションを育てていくのです。
 プレイヤーが口にした行動や、思いつきの設定にわからないことがあれば、プレイヤーに尋ねてください。そして、その中から後の展開や障害として使えそうなものをメモしておくとよいかもしれません。
 世界が隙間だらけの時点では、GMは一切の計画性を持たないようにしてください。プレイヤーが告げた行動や設定も可能な限り受け入れることをお勧めします。
 そうすることによって、当人ばかりでなく他のプレイヤーも自由闊達に発言しやすい空気が生み出されることでしょう。プレイヤーが、GMが提示した状況に反応することを乗り越え、自分から積極的に何をしたいか口にさせることこそ肝要なのです。


 PCたちを取り巻く情勢や、事実関係が埋まってきたら、GMはそれに則って状況を動かしてください。
 また、ある程度固まったら、設定のちゃぶ台返しは原則不可とするのが妥当でしょう。それまでの積み重ねを無視した提案を行ったプレイヤーには、先の設定と矛盾していることを告げ、合致する形態への変更をやんわりと要求してください。
 物語の流れが確定的になったところで、プレイヤーの予想通りに物語を進行させるのか、GMがびっくり要素を挿入するのかは、GM次第です。僕は最終局面で、それまでの設定に従いつつもプレイヤーを驚かせる要素を一つ、即興で含ませるのが好みですが、どちらでも問題なく回ると思います。

PC同士のコミュニケーションを仕向ける

 GMからプレイヤーへの質問だけでなく、PC同士の交流を通じて設定構築の一助としてください。
 リフレッシュのルールはそのために存在します。
 まず、コンディションの回復や、プール・ダイス回復のために、「何をするのか」聞いてみましょう。
 「包帯を巻いてあげる」のなら、相手の過去に関わる傷跡を目にするかもしれません。「秘蔵のワインを開けて分かち合う」のなら、酒の勢いで普段なら口にせぬことを口走るかもしれません。「勇気づける言葉をかける」のなら、相手に共鳴するような体験を持つのかもしれません。
 それを尋ねることで、PC同士の会話を積極的に仕向けてください。
 最初は少々露骨に「彼はこんなことを言っているけど、そのキャラクターはどんな反応を示すと思う?」などと、リフレッシュを共に行っているプレイヤーに聞いてもよいのです。GMを介さずにPC同士の会話が行われるよう、話をする切っ掛けを作ってあげてください。


 PCそれぞれが持つ「鍵」には、他PCとの交流を前提としたものや、関連した行動を取らせる項目が入っています。
 PCの行動や対話の際に、鍵での経験稼ぎが織り込めることを示唆してあげれば、プレイヤーたちは進んで相互交流を行うことでしょう。


 更に強引に、プール・ダイスの回復には、そのキャラクターの知られざる一側面を示すことが必要、とすることすら可能です。
 大切なのは、PC同士のコミュニケーションを通して、キャラクターを造形させ、世界に欠けたるピースを集めていくことなのです。

危機また危機

 シーン毎のアクションを梃子に、PCをがんがん追い詰めてください。
 プレイヤーの作り出した設定を上手く利用して危機を演出するのがベストですが、慣れないうちは「障害と難易度」の項を参照にしながら、彼らの前に立ちふさがる障害を提示してください。
 判定に失敗があれば、コンディションの悪化と状況のエスカレーションを容赦なく投入しましょう。
 プール・ダイスを使わせればしめたものです。後に控えるリフレッシュを活用して、PC同士の交流を促進し、欠けたる設定を補完させてください。


 実際のところ、方法さえ妥当なら、ピンチの最中にもリフレッシュを行うことが可能なのです。だから、PCたちはどれほど追い込まれても、アイデアの尽きぬ限り打ち負かされることはありません。
 GMはせっぱ詰まったプレイヤーが要求したのなら、原則どのような状況でも受け入れてください。「死亡」にチェックが入ったキャラクターと回想を用いて交流することでリフレッシュを行い、理由付けを考え出すことで「死亡」チェックを消去し、危機一髪に死んだと思われたキャラクターが乱入、なんてこともできるのです。
 無論、リフレッシュの詳細について事前説明で親切に助言する必要はありません。
 仕掛けがもろに見えるのは興ざめでもあるので、その時がくるまでは秘しておくのが安全です。


 アクションは同時かつ連鎖的に発生するよう仕掛けてください。
 戦闘的な行動であっても、一人のPCが一判定に成功すればPCは相手を叩きのめしたこととなります。その間に、他のPCが行うことが可能な行動を考えてもらい、必要とあらば別な危機を降りかからせるのです。
 行うべきことが少ない状況なら、鍵を用いたり、リフレッシュするチャンスだと勧めるのもよろしいでしょう。


 PCの行為判定を扱うに当たり、もう一つ重要なのは、具体的な行動をプレイヤーに自ら語ってもらうことです。
 「攻撃する」などの抽象的な行動宣言よりも、「胸ぐらを掴んでそのまま壁にたたきつける」などの具体的な宣言の方が、そこから展開するアクションを他のプレイヤーもGMも構築しやすいからです。フィクションを積み重ね、そこに参加者が相互作用を起こすことで、ストーリーの影がどんどんと伸びていきます。
 また、プレイヤーにも積極的に「語り」に参加してもらい、その楽しみを味わってもらうことは、Narrativist的な遊び方の入り口となるかもしれません。
 具体的な行動宣言を伴う行動には、なんらかの優位さを与えるのが妥当でしょう。
 例えば、多数の帝国軍兵士を相手にする状況では、単に「殴りつける」でもかまいませんが、「扉を引きちぎって振り回す」方が、より多人数相手の戦い方としては適切です。イメージも喚起され、他PCの行動や、失敗時のエスカレーションのよき手がかりともなります。こういった具体性のある行動には難易度レベルの引き下げで報いてあげましょう。


 Lady Blackbirdのカラーは、スチームパンク冒険活劇です。
 現実的には無茶な提案であっても、世界観にマッチする、あるいは他のプレイヤーが許容し楽しめるものならそのまま採用してください。スワッシュバックリングものにみられる軽業アクションも大歓迎です。
 例えば自分のセッションでは、元剣闘士がオウル号の打ち出しアンカーにしがみつきながら射出してもらい、賞金稼ぎの飛空船に飛び乗るという荒技が発生しました。もちろん即採用です。難易度は高めにしましたが。

まとめ

 Lady Blackbirdのシステムは、一見簡便なだけに見えて、実際には諸要素が連動する作りになっています。
 その中心に位置するのは、PC同士、プレイヤー同士のコミュニケーションを誘発することだと思われます。
 GMの役割は、プレイヤーからあふれ出たアイデアのきらめきを拾い上げ、あるべき場所に配置していくことです。そして形作られた全体像から、適切な材料を掴んでPCに投げ返してください。そのやりとりがストーリーを最終局面へと導いていくことでしょう。


 全部を使いこなそうと考えるなら、難しいと感じる方もおられることでしょう。
 実際は、上記のような要素を頭の片隅に置いてプレイするだけでよく、あとはルールが自然と結果を導いてくれます。
 海外blogの解説だと、プレイヤーにPCの置かれた状況を尋ねてどんどん語らせていき、ほぼ全ての行動を難易度レベル3で処理するという手法も書かれておりました。GMの注意すべきは、プレイヤーの提案を否定しないことと、それ以前と矛盾する設定が提示された場合のみ別な道を考えてもらう、ぐらいです。


 以上、仕掛けのネタばらしになると考え、ガイドを書くのには消極的だったのですが、反応のなさに耐えきれなくなって、つい書き出してしまいました・・・。