断片の物置、跡地

記憶の断片が散乱するがらくた置き場

HP16のドラゴン

(2022/12/06追記)こちらで、訳し直したテキストを公開してます:
『HP16のドラゴン』訳|ふぇる|note


 去年販売されたDungeon WorldのRed Bookにおいては、レベルアップごとのHP上昇が存在し、モンスターのHPもモンスターレベルに合致した値を取っていました。
 一般的な古いD&Dクローンと大差なかったのです。
 ところがDungeon Worldの現行バージョンは、PCのHPがレベルアップで上昇したり、モンスターが膨大なHPを有したりするスタイルを取ってません。
 PCのHPが12〜28(CONの能力値にクラスごとの固定値を加えた値)に収まるのに対し、たとえボス格であってもHPが20を越えるものは一握りです。
 モンスターの大スター、ドラゴンでさえも16どまり。
 Lv1のPCであっても、正面から殴り合えばヒット2発で葬り去れる、貧弱と言っても過言ではない数値です。データ面だけではPCにとっての脅威とは到底思えません。


 では、どのようにしてこの「ひ弱なドラゴン」は、PCたちを脅かす存在になりうるのか。
 DWのフォーラムに投稿された文を、デザイナー氏がblogで紹介しているので、テキトーに訳してみました。
引用元A 16 HP Dragon

 私たちはみな、ビデオゲームと「伝統的な(ファンタジー)」RPGを遊んできました。モンスターと戦うことは、それを打ち倒すまで存分に裁断することであり、モンスターはそれを行うのに十分な長さ生存するものだと、そこで私たちは教えられました。
 しかし、トールキンの小説において、スマウグは村を破壊し、数千人を殺したものの、鱗の欠けた部分への矢一本で殺害されてしまいました。
 これらの戦いを、伝統的な「あいつはXのHPをもつので、倒すには我々がQの命中をY回与えなければならない」ではなく、より文学的な観点とペース配分で考えてみてください。この状況に置ける問題は、フィクションのための理由付けが存在しないことです。剣が一貫したダメージを与え、全ての問題(モンスター)に同じツール(武器を振るう)を当てはめるためにモンスターのHPを調整することは、機械的な解決(シミュレーション)なのです。
 私はこの問題を抱えていました。ドラゴンが16ヒットポイント(レベル1レンジャーのダメージ・ロール最大値で殺すことが可能)との記載を目にしたとき、それを4倍にしてしまったのです。ですが、戦いを描写させてください。おそらくこれは、何が起きるのかという「ほのめかし」を与えてくれるでしょうから。
 パーティはマジック・アイテムを必要としたので、調査を行ったところ、件のアイテムを振るっていた英雄がドラゴンによって殺されたことがわかりました。彼らは別ドラゴンの人間形態をとったドレイクの召使いからいくばくかの情報を得て、件のアイテムを盗みに向かいます。念のため言っておきますが、この世界における魔法とは「+Xの魔法の品」を意味しません。この槍は魂を貫き通すことができ、魔術の王を倒すために必要とされるのです。さて、そんなわけでまさに何かへと攻撃を仕掛けんとする、大激怒したドラゴンを手にしました。繰り返しますが16HPの、よろしいですか?
 補充を行い、再び魔術の王の探求に集中すべく、パーティは馬に乗って灼熱の湯船と化すのを目前に控えた街に戻っている途中です。少しして月は沈み、彼らは風向きが変わるのを感じ、それから耳をつんざかんばかりの引き裂く音と共に何者かが街の集会場に舞い降りるのです。蛇のごとき頭部がくねるように打ち下ろされ、鎖鎧を身に纏った衛兵が一撃で引き裂かれるのを目にするまで、ほんの数秒目を瞬かせる間しかありません。彼らは拍車を入れて速度を上げ、待ちへと向かいます。私は紙をどんと置くと、蛇行する街路を幾本か手早く描き、箱形の家を数個大まかに描いて、ドラゴンを表す大きなダイスを重々しく設置します。彼らがまさに中へ踏み入ろうとするとき、私は一握りの赤いトークンを掴み、彼らがこの遠距離から感じ取る空気の変容とドラゴンの発する言葉を描写します。赤いトークンを街に積み重ねて置くと、ドラゴンによる制圧と、どこがどのように燃え上がっているのかをその形をもって説明するのです。
 彼らの馬は動揺します。彼らは何とか馬から下ります(恐慌状態に陥った走行中の馬、そして枝に打ち付けられることにより、多少のダメージを受けるものもいるかも)。彼らがこの地獄のような領域を突っ切って進み始めると、むらのある影が振り下ろされ、誰かが二つに切り裂かれることでしょう。焼け死につつある人々が慈悲と助けを乞う間にも、くるまれた幼子たちは彼らの腕の中で灰に変るのです。
 グループは街の住人を救出し始めると(ここは魔力の結節点ではないため、ウィザードは雨を降らせる儀式を行うことができません)、4−5トンの生物の着地によって建物が粉砕されます。煙を吐き出す口を広げ、黄金の瞳は燃え上がり、吠え猛ることで心を覆い隠す(恐怖を与える)のです。
 彼らの突進は追い散らされ、PCはそいつに攻撃を仕掛けるために、自身の恐怖心をはねのけねばなりません。何を行おうとも彼らはわずかなダメージしか与えられない(いいぞ、防護4)ため、こいつを殺す一撃を有するのは、防護を貫通するウィザードの呪文のみだと気がつきます。あいにく、ドラゴンにそれを行うわけですが。
 恐怖に引き続いて、次のようなことが起こります。ファイターが防御のための位置につきます。ドラゴンがそれに攻撃を加えるとき、単なる1d10+5ダメージには留まりません。その攻撃は戦士の腕をもぎ取り、鎖鎧をティッシュペーパーのようにズタズタに引き裂きます。ブレスによる攻撃は、全員に《危機に立ち向かう》を行わせ、失敗すれば焼かれてしまいます。
 パーティは傷つき、逃走します。ドラゴンは哄笑すると、村の灰燼に腰を落ち着け、生存者を貪ります。
 ドラゴンの有するヒットポイントは16です。パーティは離脱前に9点を与えました。そして離脱というのは、わずかな所持品を持って、ウサギのように夜闇に走り込んだことを意味します。回復するのは容易ではなく、生き残る以外のことを考えられません。
 話の教訓は、PCたちを脅かすのにヒットポイントは関わりないということです。私がDMしたD&D4eにおいて、パーティは1ダースにも及ぶドラゴン殺しを経験しました。ドラゴンたちはメカニカルな脅威であり、狡猾であり、戦術的でしたが、その爪と牙はさほど多くのダメージを与えなかったのです。このセッションの後、モンスターが怖くてしょうがないといったことは決して起きないだろうと、プレイヤーたちは明らかにしました。
 戦いを英雄的なものとしましょう。フィクションを用いましょう。炎により肌が黒く縮れていく様を描写しましょう。アースエレメンタルの屈強な石の腕に掴まれたことで、骨が粉砕されるのです。多くの戦いは、5ダメージを受けたと口にすることでフィクションが片づけられるでしょう。それを深々と突き刺さるものとし、癒やしがたいものとし、傷跡を残し、物語で得た全ての痕跡と傷をもって戦闘を強固なものとするのです。
 戦闘を恐ろしいもの、あるいは厳しいものとするのに、2500のhpなど必要ないのです。


 ちょっとだけ補足。
 Dungeon Worldの基本的なルールは、プレイヤーが「与えられた状況からPCの取る行動」を宣言して、それがシステムで準備されたムーヴに落とし込めるならロールを行い、記述に従って成り行きを紡ぎ出すというものです。言い換えれば、ムーヴで求められるシチュエーションを作り出さなければ、望む効果をもたらすムーヴでロールが実行できないということでもあります。
 例えば、近接戦闘を処理するために《ハックアンドスラッシュ》というムーヴが存在します。
 これを用いる条件は「双方が戦闘準備を整え、相手に傷を負わすことができる状況で対峙している」ことです。*1
 さて、上記にあるドラゴンとの戦闘を考えましょう。
 ドラゴンに対して《ハックアンドスラッシュ》を行うためには、武器が届く距離に近づく必要があるでしょう。ひょっとすると鱗の薄い腹部の下に潜り込まなければ、有効な打撃は与えられないかもしれません。「移動しながら爪の攻撃をかいくぐる」「恐怖を引き起こす咆吼に耐え抜く」「火傷をものともせず灼熱を纏った巨体に打ちかかる」など、幾つかの危険を切り抜けなければ、ダメージを与えるムーヴをロールすることができない可能性があります。
 別の攻撃手段をとるにせよ、ドラゴンは「飛行している」ので、なんとか地上に引きずり下ろす手段を見つけ出さなければならないかもしれません。「エレメンタルの血脈」によって一般的な魔法からは守られているから、打ち破るために対抗しうる精霊の力を借りなければならないかもしれません。
 GMはモンスターデータに記述された非メカニカルな要素を活用し、加えてPCたちのおかれた周辺状況を考慮に入れながら、PCが望む行動をとろうとする際の障害を動的に作り出していくのです。戦闘だからといって、ばか正直に殴り合う必要はありません。当然ながら、多彩な特殊能力や、狡猾さを有するモンスターは、それを生かして優位な状況を作り上げようとすることでしょう。
 プレイヤーはそれに抗するための手段を宣言し、GMは適切なムーヴを行わせるなどして結果を導き出し、成り行きから新たな状況が発生する。DWのアクションシーンは、そのような雪合戦から織りなされるものとなります。
 GMの即興的な状況形成に頼ることは、セッションの柔軟性を大いに高めてくれます。反面、GMは暴君にならないよう気を配る必要があります。状況を誠意を持ってプレイヤーに説明して、納得が得られないなら詳細を詰めることですり合わせを行い、ムーヴからもたらされるロール結果をねじ曲げることはせず、プレイヤーのアイデアには耳を傾けながらできる限り拾うよう心がけましょう。

*1:無防備な相手に斬り掛かるなどの一方的な状況では、自動的にダメージが発生します。ロールは不要です。