断片の物置、跡地

記憶の断片が散乱するがらくた置き場

PC設定の仕込みとその限度

 『深淵』で構造型シナリオを作る場合、テンプレートを選び(または作成して)一つか二つの運命とそれに伴う設定をハンドアウトで渡すようにしています。行動動機や他のPCやNPCとの絡みをここで仕込んでおくわけです。いつも考え込んでしまうのはどの程度までの設定が許容されるのかです。
 テンプレート選びは比較的容易です。物語に必要な要素や戦闘上のバランス、必要な技能or魔法を持つものを組み合わせていけばいいからです。難しいのは「白馬を釣れた娘」や「漂泊の戦姫」などの女性PC限定ものの扱い。幻想物語においては共に強烈な意味を持つが故に、そして女性PCであることを強制させるが故に、扱いにはかなりの注意を要します。私個人は、近頃はよっぽどの理由がないかプレイヤーからの申し出がない限り、これらは使わないようにしています。プレイヤーを選べる環境ならともかく、そうでないのならとりあえず外しておくのが無難でしょう。
 運命には恋愛をはじめとする強い感情的動機をもたらすものが少なくないので、さじ加減には常に悩みがつきまといます。例に出した「恋愛」でこのことを説明しましょう。PCとNPCの関係だった場合、NPCが行方知れずになっていたり、故郷で待っていたりの離ればなれな間柄が一番簡単で扱いやすいでしょう。NPCが依頼人だったり、序盤で望まぬ離別を経たりの常に会わない間柄も調整は行いやすいものです。一緒に旅をしているとなると一気に難易度が上がります。さらにPCからの一方的な想いではなく、相思相愛だったりするとかなりの気合いとプレイヤーとの相性が必要となるでしょう。主には気恥ずかしくてできねー、ってことなんですが、プレイヤーとマスターの価値観が違ったりしてかみ合わない可能性も含んでいます。ステレオタイプな恋愛像を当てはめるのは簡単ですが、それぐらいならやらない方がまだいいというのが自分の考え方です。ましてやPC同士の恋愛を最初から仕込む勇気なぞ今の私にはありません。
 この価値観の差は意外とコンフリクトを起こすことが多く、例えば「罪悪感」などといった運命のとらえ方にも影響してきます。過去の出来事を設定して、それに対して罪悪感を抱いているとプレイヤーに告げることは簡単です。しかし、プレイヤーの価値観がその出来事を軽く見てしまうのならシーン構築がちぐはぐになったりします。「罪悪感」「傍観者の記憶」などはある程度の幅を持たせる設定にして、プレイヤーと詳細を詰めるのが無難でしょう。
 逆に扱いやすい運命は、「際だった性格」「帰還を待つ者」といった狂気を伴うものです。意外と思われるかもしれませんが、目的や行動基準がわかりやすいのと、プレイヤーやゲームマスターの価値観の齟齬が出にくい(日常的に狂気に接することは希だから・・・)からです。PC全員がこれだとばらばらになってしまいますが、一人仕込んでおくだけで緊張感を出せますし、「深淵らしさ」の一側面を引き出す手軽な方法だと思います。性格の全く合わない初心者プレイヤーに渡すとかしない限りは安全パイと言ってもいいかもしれません。


 ん? 単に私が女性PC演じたり、ラブラブシーンを演出するのが苦手なだけだろうって? ええ、そうです、そうですとも!
 そうそう、京都深淵CONで配られていたシナリオ集は、ざっと目を通した限り、私の想定する難しい状況を仕込んでいるケースが少なくないように見えました。これがプレイヤーに恵まれているのか、マスターの演出がうまいのかはわかりませんが、個人的には安定して運用できる自信がまるでありません。あれができるなら理想的なんでしょうけど、到底そんな域にはありません。なので、下手なGMなりに致命的なことを引き起こさない程度の仕込みを心がけてシナリオを組み立てていきます。