断片の物置、跡地

記憶の断片が散乱するがらくた置き場

Dungeon Worldの簡易レポ

 土曜の2部は、初期のD&D風ファンタジー冒険譚を遊ぶシステム、Dungeon Worldを遊んでみました。
 ルールはApocalypse Worldの処理を基本としております。すなわち、シンプルで柔軟性が高く、プレイヤー権限が強烈な代物です。また、ゲーム内フィクションを特に重視し、プレイヤーの提供する材料を組み入れて、世界を広げていく仕掛けも施されています。
 今回遊んだのはBasicと銘打たれており、基本の4クラス(+ボーナス1クラス)と中レベル帯までしかサポートされていません。完全版は、7クラス以上を収録して、10レベルかそれ以上、そしてより広範な冒険を扱う形となって来年夏ぐらいに登場予定。


 今回遊んだのは、付属アドベンチャーのBloodstone Idol。以下は若干のネタバレを含む内容となります。
 ブラッドムーアという都市から放逐され、企みを持ったまま姿を消したゴーレム使いの魔術師を追って、ダンジョンに突入するという前設定。単なるダンジョン探索に留まらぬ様々な方向に足跡が伸びる構造であり、キャンペーンの入り口とすることが奨励されています。
 プレイヤーは5人だったので、ファイター、クレリック、シーフ、ウィザードの基本4クラスに加え、ボーナスで追加されたパラディンも用いました。
 AW同様、個々人へのフォーカス度合いが高いシステムなので、単発時に5人は少し多いかもしれないという印象を受けました。ただ、GMとしてどの程度の仕切りを行っていくのか手探りだったという状況もあったため、断ずるには至りません。


 Bloodstone Idolはテキトー訳を行い、編集したところA4用紙18ページになるボリュームあるシナリオでして。古き良きダンジョンものへのリスペクトからか、ほとんど全ての部屋に一癖ある仕掛けが施されています。
 これをフルでやると半日がかりにもなりかねないので、プレイヤーのレスポンスを見ながら、運用方法を決める心づもりでした。で、面子とキャラクター作成時の会話から、古典的ダンジョンクロールものを期待している感を受けたため、できるところまでガッツリやってみることに。


 ネタバレ回避のために詳細は割愛しますが、最終的に魔術師の研究室の二部屋前にて、大金で捌けるキノコを発見してしまったPCたちが重量限界まで持ち運び、いったん街へ帰還する流れとなります。それなりの時間遊んだことだし、頃合いもいいかなと思い、GMはここで黒幕であった派閥の一つを登場させます。
 このダンジョン、内部では4派閥がそれぞれの思惑を持って絡み合う複雑な構図となっており、さらに古代の神像にまつわる秘密やら、デーモン的な勢力を含む強力なクリーチャーがごろごろしております。そんなわけで、3時間以上かけて半分も踏破できていない実情と、時間(1時近かった)を鑑みて、PCたちが一番疑問に思っていた事件の背景を明らかにして、それを受けての決断を持ってオチをつけようとした次第です。
 ところがここで、パーティの意見が分裂。
 派閥からの使者を独自の判断で不意打ちしようとしたファイターが一撃を外し、パラディンが加勢。更に、新規取得した毒塗りのムーヴを使いたくてうずうずしていたシーフが攻撃を加えますが、痛恨のミス。逃亡を許してしまいます。
 この後、真実を明るみにすべきだと主張するパラディンと、背景の規模から自分たちの身の安全を主張するウィザードとを中心とした話し合いに突入。結論が出そうもないため、ダンジョン外に、先程逃亡した使者が配下を率いて戻ってくるとします。
 つがえられた大量の弓を前に、ウィザードのテレパシーによる説得もあってぽっきり折れてしまうファイター。パラディンは死を覚悟しての突撃を行おうとしますが、ここでシーフが先の毒(注入後最初に見たものを信頼できる味方だと思い込む)を彼に注入するという奇策に出ます。これにより、NPCの使者一行を味方だと思い込ませられたパラティンは歪曲されてしまい、人々を守るためしぶしぶ彼らに協力することに。
 戦争の足音が聞こえる中、冒険は続くのであった・・・的な幕引きとなりました。


 さて、Dungeon Worldは、AWと同様に、ハイライトされた能力を用いて行動することにより経験点を稼ぎ、規定分溜まればセッション中に成長を行えるルールです。
 AWの場合は、MC・プレイヤー間の会話の積み重ねから基本状況を作り上げ、主にプレイヤー判断で(リスクを考慮しつつも)ムーヴを投入するという作りでした。極限状況での群像劇という設定上、必然的にどの行為も(ミスした場合の)リスクが高く、かつムーヴ1回の大成功で状況を打破しうるものだったのです。そのため、経験点の配布バランスがそこまで気になることはありませんでした。
 ところがDWの場合、ミスが発生した場合、望ましからぬことが発生するというリスクは同じなのですが、PC全員で行動するのが基本のダンジョンクロールものにあっては、行動の重みがずいぶんと違ったものになってしまいます。例えば、ハックアンドスラッシュという戦闘ムーヴで切った張ったするのと、事実の識別という状況を読み取るムーヴで観察するのとで、全く同じ1経験点となるのです。
 また、ダンジョン探索と戦闘というフォーマットは、特定のムーヴを必ず使うおきまりの状況が発生しやすいため、ムーヴの投入主体がプレイヤーの手を離れがちです。結果、「軽い」ムーヴを多用する能力へのハイライト、及びをの能力をメインとするクラスの方がレベルアップで優位に立ちます。今回は、クラス間の成長格差が激しいものとなってしまいました。
 GMである自分が、AWとの違いも含めた要素を全て把握した上で運用すればまた違ったのかもしれません。それに今回ウィザードのプレイヤーがベテランであったため、強引にでもXPを取得に繋がる低リスクの行動を乱発した影響もありました。それでもウィザードとクレリックなどの術者がレベル3に到達する(30回の経験を得る行動を行った)間に、ファイターやパラディンなどの前衛が2レベルに至っていない(経験件取得行動が10回未満)なのは、バランス上の危うさを感じずにはおられません。Bloodstone Idolのようなダンジョン探索メインの場合は特に。


 あとは、ロールよりも状況の構築を重視するシステムなので、ルール通りに運用すればそれっぽくなるという構造ではありません。GMの描写とPCの反応を共有していくプロセスと、そこから広がっていく世界こそが大切なのです。
 だからTRPGにおけるダンジョンクロールものの経験が僅少な自分にとっては、手出しのタイミングとその強度を掴みかねるところがありました。GMの裁断がプレイヤーの不満を招くところもあり、次回以降は心しようと誓った次第です。


 プレイヤー感想の中では、大Kさんの「弱肉強食のRPG」という言葉が印象的でした。
 行動の機会を機敏にとらえては果敢に動いたものがどんどん強くなり、セッションで展開しているフィクションに順応することで話の中心として動いていける(同時にリスクも低減できる)というのがその理由。つまり、PCのデータよりも、プレイヤー力こそが生きてくるシステム、というわけです。
 各PCがデータ上に持つムーヴの効果は明確かつ強力なものであることは変わりなく、プレイヤーが全身全霊を賭して動き回らなくてもさほど割を食うわけではありません。しかし、パワーバランスをとるようなセーフネット機構がほとんど存在しないため、PCの立場から来る行動機会の多少や、プレイヤーの積極性が、能力的な格差へと直結する仕組みなのは明らかです。今回はGMが調整する余裕も少なかったので余計に。DWの場合はレベルアップによりHPも大幅上昇するので、PCの脆弱さがほとんど変化しないAWより、成長による格差が顕著でした。
 制限をかけて天秤を釣り合わせるよりも、引っ張ってくれるプレイヤーを補強することで更なる盛り上げを図るという設計思想は面白いし、個人的には大いに水が合います。しかし、好みが大きく分かれるところでもあるでしょう。