断片の物置、跡地

記憶の断片が散乱するがらくた置き場

心構え

 ずっとサボっていたGM手法について、ちょくちょく書いくことにします。
 自分のマスタリング手法を意識的に変えている最中なので、ここらで少しまとめたくなった、というのが本音。なので、完成された方法論でも、べきべき論でもございません。使えそうなところだけ切り取ってくださいまし。
 今回はGMする際の心構えについて。
 この雑文が、マスタリングの一助になれば幸いです。

何に軸足を置くべきか?

 ゲームマスターは頻繁に意志決定を強いられる立場です。
 状況の提示、NPCの反応、PCの行動の成り行き、事態の推移等々、GMがその場で判断しプレイヤーに投げかけるべき項目は多岐に渡ります。TRPGはインタラクティブな遊びであり、想定の外からボールが飛んでくることもしばしばあります。慣れないうちは、処理が重なりGMがオーバーヒートを起こしてしまうこともままあるでしょう。
 過剰な負荷が発生する要因の一つとして、「慣れないGMは全てを完璧にこなそうとする」ことがあげられると思います。
 自己欲求水準が高いことは悪いことではありませんが、最初から全部こなせる人なんてほとんどいません。手慣れたGMであってもポカミスや、予想外の行動を処理するために手間取ることはしばしばあります。


 一度深呼吸して、自分がそのセッションで何を最重視するのか考えてください。
 「ストーリー性」「戦闘シチュエーション」「魅力的なNPC」「ホラーシーンの連続」「コミカルな描写」「自由度の高い箱庭型」等々、なんでも構いません。決めたらそれを最優先事項として、意志決定を行ってください。
 どこに判断基準の軸足を置くか、それを心に抱いておくことで、「この状況をどう処理するのが自分が、重視しているものに寄与する結果を生むのか」見えやすくなることでしょう。

『主人公はPC』を忘れずに

 一般的に、責務が重い反面、GMの権限は強大です。
 軸足をどこに置くか決まったところで、一心不乱にそれを追い求めるのは少々お待ちを。何を最重視するにせよ、それをプレイヤーに強要しては、不興を買って楽しい時間を共に過ごせなくなる可能性があります。それに、吟遊詩人GMなどのレッテル張りをくらい、以降プレイヤーからバイアスのかかった不快な応対をされるかもしれません。
 先の最重視する要素に払うのと同等の配慮を、プレイヤーに対しても忘れないでください。
 さほど難しいことではありません。次の二つの鉄則を心に留めておけば、okでしょう。

  1. PCの内面に踏み込まない
  2. PCが主人公であることを忘れない

 
 1については文字通りです。
 大抵のシステムでGMは世界のほぼ全ての事柄を決定することができます。ただし、PC、特にその内面に関してはプレイヤーの領域です。侵食すれば、プレイヤーのやる気を大いに削ぐ結果を生みかねません。
 例えば、ハンドアウトなどで「君のPCは、NPC1と恋仲である」という設定を与えるのはアリです。ところが、セッション中NPC1に手をさしのべて欲しい場面で、恋仲設定のPCがそれを足蹴にするケースが発生した場合を考えてみましょう。GMは「懇願する彼女の姿を目にすると、君の心には愛おしさが溢れ出してくる。手を振り払うなんてとてもできそうもない。」などとPCの内面や行動を規定することが許されるのでしょうか。無論、否です。
 それはプレイヤーに委ねられるべき事柄です。
 方向付けを行いたい場合は、ルール的なペナルティなどを用いて制約を与えるのが関の山かと。上記の例だと見捨てたらペナルティを受けるとし、その旨をプレイヤーに通知するなど、が許される干渉の限度だと思います。
 この手のペナルティは限定的で継続しないものに止めましょう。個人的には、プレイヤーの判断の秤を揺らすものであっても、決定づけるものにしないことが肝要だと考えます。


 2も単純明快です。
 PCたちは、そのセッションにおける主体となる存在と言えます。その役割は、小説、ドラマ、映画、演劇などのメディアで扱われる主人公と同じです。能力などたとえ凡夫であっても、周辺状況がいかにシビアで動かしがたいものであっても、その時間だけは彼らにスポットライトがあたり、事態は彼らを中心に回るのです。
 なので、プレイヤーたちが提案するPCの行動に対し、GMは安易に「無理だ」と口にすべきではありません。
 主人公ゆえに、彼らの持つ能力・所持品・コネクションなどのリソース(設定も含む)は、事態を進展させうるファクターとなります。プレイヤーの側からリソースを(セッションで展開されるフィクションに沿って)活用する行動を提案されたら、積極的に取り込む形でセッションを進行させることが望ましいでしょう。
 もちろん、プレイヤー提案を100%受け入れる必要はありません。
 準備したシナリオの雰囲気に合致しない、あるいはあまりに突拍子もないなら、よりGMが妥当だと考えるものに調整して、プレイヤーに「そのままだと難しいけど、〜はできるんじゃないかな?」などと提示してみましょう。必要ならそこからキャッチボールを重ねて、両者が納得できるものを作りだしてください。ひょっとすると更なるアイデアが掘り起こせるかもしれません。


 利点は二つ。
 まず、GMが事前に用意した解決案や、行動方針に沿って動くよりも、プレイヤーにとってはずっと体感的なセッション参加が可能となります。それはみんなの楽しみの源泉となり得ますし、より積極的なPCの行動を促進する上でも有用です。
 次に、セッションの場で扱われている共有イメージへのアクセスが容易になります。提案者の抱いていたイメージが、セッションに反映されることにより参加者全員が分かち合うことが可能となるからです。また、提案をGMとやりとりしてシナリオに合う形に調整する過程で、イメージのすり合わせを行うこともできます。


 プレイヤーは、GMの強権発動を敏感に察知します。おそらくGMが想像している以上の鋭さを発揮して。対処を間違えれば、反感をプレイヤーの心に芽生えさせてしまうかもしれません。
 セッション中、一度でもプレイヤーの心がかたくなになれば、再度開いてもらうのは困難です。さらにそういった空気は伝染しやすく、誰もが不満を抱く悪夢のような事態も発生し得ます。
 上記二項目を忘れず、プレイヤーに寄り添うようにしてください。

続く?

 えーっと、当初考えたことからずいぶんずれた内容の文になってしまいました。
 もうちょっと包括的なことを書くつもりが、長すぎる上に未整理だったから前置きを切り取ってみたら、当たり前のことしか提示できないという帰結を迎えたと申しましょうか。プレイヤーのアイデアを引き出す方法として、「リアルとメタ」の話に踏み込んだら、うまくまとまらなかったんですよね。
 次回はもうちょい具体的な運用技術「より良き失敗を提示する」の予定です。
 恥さらしになりますが、少しずつでも書き続けることで、自分の言わんとすることを掘り起こせるようにがんばってみます。