断片の物置、跡地

記憶の断片が散乱するがらくた置き場

Mortal Coilの簡易プレイレポ

 3部に超自然を中心にした物語を、参加者のコラボレートにより動的に積み上げていくシステム、Mortal Coilのお試しセッションを行いました。
 開始は土曜の26時ぐらい。
 4人の面子は、2セッションをみっちり遊んでいるか、キャラメイク入れると13時間ほどD&D3rdフルコースを召し上がった後かで、割とお疲れ気味。明らかにGMも含めて脳が茹だった状態です。
 申し訳ないと思いつつ「テストだからキャラメ1時間、本編2時間ぐらいで軽く」とあり得ぬレベルで甘めに見積もった予想時間を告げ、無理矢理人を集めました。ごめんよー。


 前日にキャッスル・ファルケンシュタイン的な世界での冒険譚ネタを考えておいたのですが、自分の体力も鑑みて方向転換。
 Mortal Coilの基本通りに進めることにします。
 すなわちルーズリーフを1枚取り出し「どんな話が遊びたい?」とプレイヤーにきいていく方式で。

ブレインストーミング

 無論、時間帯からしても、真面目なアイデアがわき出でるわけもなく。
 「ドラクエやりましょう、ドラクエ」という流れに収束していきます。「バラモス城の前から」「勇者はNPCで」「ほいほい、じゃあどんなシーンから始める?」「勇者が殺されてしまうのはどうだろう」「すぐ復活するべ」「じゃあ死体がラストダンジョンに引きずり込まれ、無理ってことで」ここんとこ3部でRPG遊ぶ機会がほとんど無かったけど、この後先考えないざっくり感が堪らない。
 この時点で出たアイデアをメモりつつ、遺体回収->復活の手段->魔王との戦い、ぐらいで終わるだろうとの心づもりでした。


 さて、PCですが、Mortal Coilでは4ランクの力量が設定されており、それを選んでキャラクターを組み立てる方式。
 お試しプレイということもあって、1d4を振って各々選んだところ、見事に力量がばらけることに。「この新人はなんで魔王の迷宮前まで来てるの?」「レベルあげに連れてこられた遊び人とか」「むしろ、上位の2ランクは人間じゃないわけだが、どうやって勇者パーティに組み込むのさ?」そんな話し合いの後、全員が勇者パーティという当初案は消失。2-2で分かれ、片方は魔王城の地下からスタートとなります。
 そんなこんなでできあがったPC構成は次の通り。

スクエア姫:勇者を誘い出す餌として囚われた姫君にして精霊ルビスの神官。
戦士ハドソン:勇者の友なる武技に優れた戦士。
アトラス:姫に想いを寄せる魔王城の顔役たるキングスライム
ニンテン・ド・ソニー:勇者に同行する吟遊詩人を装う、彷徨える物語の神。

 既に想定からの逸脱が始まっております。
 あ、勇者の名前は伝統に則ってエニクスでした。

Mortal Coilの特徴

 このシステムはダイスレスで、トークンを用いたリソース制を取っています。
 トークンには「マジック」「アクション」「パッション」「パワー」の四種類が存在します。
 アクションとパッションの2種は、物語的に重要なPCたちの行動処理(コンフリクト)を行うのに用い、不確定要素の行動の成否とディテールの生成に用います。アクションシーンは、コンフリクトに関与するキャラクターをもつプレイヤーが、隠しながら各行動にトークンをビットする形式です。読み合いの要素が強く、相手の予想しない行動を考えることが有用な作りになってます。
 パワーは主に、コンフリクト時の配置トークンを、全員の行動オープン後に増強するといった、ヒーローポイント的な使い方をする使い捨てトークンです。また、魔法に関わらない事実を追加することも可能。必要なアイテムやコネを、持っていたことにできるわけです。セッションを滞りなく進行させるためのリソースと考えてもらえばわかりやすいかも。


 そして、最も異彩を放つのがマジック・トークン。
 たいていは世界の魔法的な事実を追加するための通貨、という用い方をするのですが、参加者が望む要素をそのまま挿入できるわけではありません。
 新たな魔法的事実をプレイヤーが追記すればGMが、GMが追記すればプレイヤーが、それぞれその魔法の「代償」を決定できるのです。これは基本的にネガティブな側面ですが、最良の代償は魔法を寄り興味深いものにするもの、とされています。
 代償はPCを取り巻く状況をより入り組んだものに変え、将来的に少なからぬ葛藤を呼び起こす種を蒔くものとなります。今回のセッションにおいては、これを決定するに至るやりとりが一番面白いパートとなりました。
 加えて、プレイヤーが追加した際の代償決定権は、パワー・トークンを用いて、設定した以外のプレイヤーがGMから買い取ることができるようになってます。その結果、他のPCを取り巻く状況にも自然と目が向くようになるわけです。
 なお、既存の魔法設定に、矛盾しない事実を追加するのにもこのトークンが使われます。

セッションの概要

 セッションは、勇者の死と残された二人のお供PCが試みる城への突入と、勇者の死によって用済みになった姫への処刑命令に反発したキングスライムが、彼女を牢から連れ出し入り口へと向かう、その2シーンを交差させる形で始まりました。
 「姫様はどれぐらいの間囚われの身だったの?」「一年ぐらいですかねえ」「んじゃ、痩せ細った姫君が鉄輪によって牢の壁に繋がれている。日の光から遠ざけられた肌は青白く、月明かりのような儚い印象を与える。そこにもたらされるは、想い人であった勇者が討ち取られたという悲報。地下より響く魔物たちの歓喜の唸り。そして・・・」「GM、ドラクエはそんな雰囲気じゃありません」・・・「ふむ、ここで勇者が殺されるとは、な。だがこれによって物語は予想も付かないものとなるぞ。いかに決着させるかな(ニマニマ)。」「賢者殿、何を突っ立っておられるのか? 勇者殿の死体を回収せねば蘇生もできませぬぞ。」「おっと、これは失礼。ついつい物思いに耽ってしまいました。」
 まー、こんな感じの3部に相応しい雰囲気。


 セッション開始直後から、とにかく、マジック・トークンによる追加設定の増えること増えること。
 最初はテーマ・ドキュメントに記載してもらっていたのですが、そのうちめんどくさくなって誰も書かなくなってしまいました。時間帯ゆえ致し方なし。しかも、そのルーズリーフを忘れて帰るという失態を犯してしまいました。僕もさすがに眠気に押され気味だったのでしょう。


 そんなわけで、入ってしばらく進んだ通路で合流するPCたち。
 はぐれメタルNPCとのコミカルな絡みなどを挟みつつ、当面は勇者の蘇生を第一目的として協力することになります。ここでキングスライムの担当プレイヤーが「魔王城の食料の多くは、同族であるスライムを加工している、ぽにょ〜」とか言い始めます。その流れから、蘇生の魔法であるザオリクの代償は、生と死の均衡を保つためスライム千匹の死を招く魔法、と決定されました。南無。
 あ、僕は「地下の広間に吊された勇者の遺体が、ネズミの怪物たちに食い散らかされ毀損していく様」を楽しげに描写してましたよ。「だから、そこでR-15指定を受けるCGシーン挟むと、子供たちに販売できないじゃないですか。これはドラクエだってば」とツッコミを受けたのはいうまでもなく。
 このあたりで「魔王は勇者の血筋のものにしか殺せないが、血を受けたものを世の中から絶やすことは決してできない」という世界法則めいた設定が追加されました。プレイヤー側にしたらこの代償は勇者を蘇らせることのできなかった場合の保険だったのですが、これが最終局面で別な意味を持ち浮かび上がるとは、この時点では予想だにしませんでした。


 このあたりからキングスライムの迷いと姫君の決断を軸とした話が回り始めます。
 吊された死体を回収しようとしたPCたちは、ザオリクの代価を知った(詩人の神PCがうっかり洩らした)キングスライムPCが逡巡するうちに、逆に発見されて魔物たちに囲まれる危険を背負います。ここで代償を知りつつも勇者への愛と世界の明日を優先した姫様がザオリクを放ってしまうのでした。あわれ、はぐれメタルのハグリンはキングスライムの目の前で命を失い、物言わぬ金属の骸へと転じます。
 「んで、勇者は縛り吊されて、ネズミに囓られ、すぐ隣にはキラーマジンガと配下がいるわけですが。蘇った直後の勇者は叩き切られちゃうかな」「GM、マジック・トークンを使ってザオリクの設定に追記。復活後しばらくは半透明になって、全ての攻撃や束縛をすり抜ける、ってのはどう?」「それだ!同じことを考えてました」「シューティングかよ。それは世界観にあわない理屈では?」「じゃあ、精霊ルビスの加護で輝きに包まれ、復活後しばしは守られるってことで」そんな脳の腐りぐあいがよくわかる会話が繰り広げられたのであります。


 そんなこんなでPCたち一行と勇者は合流成功。魔物の群れにどうやって対処するが次に必要とされる対応となります。
 朝の4時過ぎにセッション開始、この時点で既に朝日が顔を出し6時半を回っていたので、GMはこのシーンを最後にすることを決定。プレイヤーは一発逆転の策として、姫君のメガンテで魔物を一掃する方向を模索します。
 このあたりで「何故精霊ルビスがメガンテの力を神官に付与するのか? それは彼女の真の姿が、狂気と享楽の女神だからである」「ザオリクは再使用するごとに、スライムの犠牲が一桁ずつ増大する(一万、十万、百万・・・)」「メガンテの詠唱による術者の死は、蘇生の魔法を受け付けなくなる」などの設定が追加。いずれも案はいかにも僕好みに見えますが、最後のを除いてはプレイヤー提案なので。誤解なきよう。
 コンフリクトは、弱り切った勇者を責め立てて自殺に追い込もうとするキングスライム、より面白い話になることを望む詩人の神、の二名以外は順当な行動を取ります。キラーマジンガの連撃で戦士は負傷し、勇者は加護の力が陰り衰弱が露わになるなか、姫のメガンテが炸裂。パッションを含めほぼ全部のチップを投入した決死の行動の前には、キングスライムの妨害も及ばず。魔物たちは石化して崩れ去るか発狂して、もはや戦いどころではない状態に。GMはこれで姫君の悲劇的な死を乗り越え、最後の戦いへと赴く、そんなエンディングかなと思ったのですが・・・。


 力を使い果たした末に白髪になって絶命した姫君を、体内に浮かべ呆然とするキングスライム。そこに詩人の神が囁きます。プレイヤー曰く「世界に生命を循環させる存在であるスライム、魔王を殺す業を背負い絶えることの許されぬ勇者の血族、これらは対になる世界法則であり、両者が交わるとき天変地異が起こる」「ってことで『やめろ、勇者を取り込んではいけない(棒)』と叫びます」、GM答えて曰く「じゃあその天変地異とは、狂気と享楽の女神ルビスの顕現ってことで」
 その後は予定調和。
 激情したキングスライムは勇者を呑み込み、彼と姫の死骸を吸収(GMがノリノリで肉が溶け血管と骨片が揺れ、崩れ消えていく様を描写したら、「CERO Zですね」と返される)。大地の隙間より、無数のスライムが沸き出でて、世界を埋め尽くしてゆくのでありました。世にある数多の生命はLCLじゃなかった、スライムに溶け消え去ります。幾星霜の時が流れ去った後、詩人の神が見上げるは、巨大な盲目の女神の姿。彼女は人の子には到底直視できぬ狂気の舞を踊り、その足下で大地が再び踏みかためられ、生命が分化していくのでした。
 ただ一人、勇猛なる戦士のみが記憶を保ったまま、次の世界で生き続けることを余儀なくされます。あるいは、彼こそが悲劇を再び起こさぬために残された希望の種子なのかもしれません。人間たちの文化が新たに花開き始めた時代、戦士の存在に気づいた彷徨える詩人の神が、その元へと歩みを進めるところでセッション終了。


 終了直後の感想は「どうしてこうなった」。
 道を外れるどころか、最初の目的であったはずの魔王は影も形も見えない有様でした。酷い話。
 自分の描写スタイルに責任の根っこがある気もしますが・・・あーあーきこえないきこえない。
 とはいえ、疲労で濁った脳みそが見せる夢にしては、案外興味深い展開をしたのではないかと自負する次第であります。スタート時点のテンションから考えると、ギャグ方向に舵を取ってもよかっただろうけど。
 参加者のみなさまには感謝。無理言ってごめんよ。

感想

 プレイヤーの共通見解は「プレイヤーとPCの視点が交錯しすぎて混乱する」というものでした。
 特に姫君PCのプレイヤー氏は、ルール酔いを起こしてキャラクターの決断へとなかなか行き着けない状態に陥っておられました。
 あとストーリー・ゲームのルールは、普段遊んでいるRPGと感覚が違いすぎて気持ち悪い、という感想もちらほら。予想されたことではありますが。


 概ね、マジック・トークンによる世界創造は好評。
 不評だったのはコンフリクト部分。上のレイヤーでより大きな決定が為されているのに、PCたちの行動を若干煩雑なルールで処理することに意義が見いだしにくい、というのがその理由でした。


 GMとしては、想定していた以上にGM側からの制御はきかないことを最初に悟り、波乗りモードに移行。
 荒波に身を任せることで予想もしなかった方向に物語が展開していく面白さを満喫いたしました。
 途中プレイヤーの加える設定に刺激されて、いくつかの(個人的に美しいと思える)物語展開が何度も頭をよぎりましたが、PCの行動にGMの望むたがを嵌めることは不可能に近いルールなので、泣く泣く放棄。キャンペーンで遊ぶなら、そういったGMの妄想も生かせるのではないかと考える次第です。
 キャラクターへの没入に欠くシステムに対して、基本スタンスは辛口ですが、遊んでみるとなんだかんだで楽しめちゃうんですよね。かつてOnce Upou A Timeにハマった時期の血が騒ぐと申しますか。


 なんだかんだで僕個人としては、かなり完成度の高いストーリー・ゲームと認識するに至りました。
 方向性は違うけど、使い方次第ではIn a Wicked Age(ストーリーを即興で作るRPGの中では今のところベストと評価)に匹敵するのではないかと。
 米国インディ系RPGにおいては、(GMレスを含む)即興的に物語を組み立てるタイプのシステムがずいぶん以前(おそらく10年近く前)から作られており、Mortal Coil(初版は2006年の作)にその蓄積を垣間見た思いでした。
 ストーリー作りを楽しめる、物語を愛好する面子を集めることができるなら、きっと予想もできない深みのある話が構築できるのではないかと。うちじゃちょっと難しいですけど。