断片の物置、跡地

記憶の断片が散乱するがらくた置き場

今日から使える(かもしれない)NPC管理手法

 新人さんたちのGMセッションに何度か参加して、基本部分の話の構成は既に個性を匂わせる出来に仕上がっている印象を持ちました。そりゃ、改善の余地は山ほどありますが。場数を踏むことで、よりGMの嗜好に合わせた内容を、プレイヤーが受容しやすい形で埋め込んでいけることでしょう。
 うちらのサークルでは特に、年を経る毎にユニークさに磨きがかかる傾向が強いため、この時点で基礎の土台が出来てりゃ十分です。意識しなくても自然と伸びるでしょうから。


 逆に意識しないと上達しない(と個人的には感じる)項目の筆頭がNPCの管理。
 身についたユニークさからくる面白演技などである程度はカバーはされますが、個人差が特に大きいと感じます。NPCとの関わりで動的に変化するシナリオでは顕著かと。
 各メディアのエンタメ作品を血肉として、引き出しを増やせ、というアドバイスはよく耳にするし、実際有用です。ただ、一朝一夕に身につくものではありませんし、上から目線に反発を感じる方もおられるかもしれません。


 なので、今回は自分が現在用いているNPC管理手法を軽く書き出してみます。
 ひょっとすると当たり前のことを偉ぶって書き綴っているだけかもしれません。その場合はツッコミよろしくお願いします。
 あと、自分が得手とする動的な物語を形成するタイプのシナリオに最適化されているため、計画的に構築されたシナリオにはあまり向かないかもしれないので、ご注意を。計画性の強いシナリオを好まれる方は、使えそうなパーツだけ切り取ってくださいな。

前提

  • NPCは固定された存在ではなく、セッションを通じて変化するもの
  • NPCを単なるセッション誘導の道具とみなさない
  • 準備するNPC設定は単純明快な方がいい

 PCの有り様と対応によって、NPCが変容することを恐れないでください。また、NPCを特定のシチュエーションにPCを追い込むための道具として扱うと、言動に矛盾を生じやすくなります。セッションで育まれるフィクションに従い、臨機応変に振る舞ってみましょう。
 ありがちなミスとして、NPCを作り込んでしまうということがあげられます。「練り込むことが悪いの?」という疑問を抱かれるかもしれません。特定NPCに専念できるなら、PC同様に多面的な人格を持たせ活用することもできましょう。けれども、GMの役割はマルチタスクを要するものです。複雑なNPC人格は、予期せぬPCアクションへの応対を鈍らせる懸念があります。自己矛盾を抱え込み、身動きできなくなることだって起きるかもしれません。
 心配しないでください。PCとのやりとりを通して、彼らは十分過ぎるほど複雑な存在となります。

NPCの構成要素

  1. 外見描写
  2. 背景設定
  3. 動機(目的)
  4. 用いる手段

 描写は一行で簡潔に。長々と多方面の特徴を並べたところで、印象がぼやけるだけです。プレイヤーがアイコンとして認識できるような特徴づけを行い、他のNPCと被らないよう心がけるだけでok。「精悍な顔立ちから肉食獣のような八重歯が覗く」とか「華美な顔立ちとは裏腹に、手には訓練で何度もマメを潰した跡が残されている」程度でいいのです。初めて登場する際は必ず描写を行い、印象づけましょう。
 背景設定も一、二行で手短にまとめましょう。微に入り細を穿つよりも、シンプルでエキセントリックなものが好ましいのです。設定の隙間は有用です。なぜならPCたちの設定を、そこに織り込んでいく余地が残されるからです。
 動機、あるいは目的も短い一行にしてください。肝要なのは、この動機を「必ず」PCたち(少なくともうち一人)と関わるように設定することです。キャンペーンならそれまでの流れを、単発ならハンドアウトを、それぞれ活用してください。あるいは目的がPC全員を巻き込む規模の変革をもたらす、でもよいでしょう。運用の際は常に動機を最優先して、NPCの行動と対応を柔軟に組み立てていきます。
 用いる手段とは、NPCが目的追求のために利用する手立てのことです。これも簡潔に書き出してください。武芸に長けているのかもしれないし、ごろつき連中と繋がりがあるのかもしれないし、魔法的な力を有するのかもしれないし、カルトの教祖なのかもしれません。あるいはただただ無力で、誰かに(たいていはPCに)頼るしかない、もありでしょう。実質的な(戦闘)データから、新たなシチュエーションを形成するより抽象的なもの(データ的なサポートを持たない権力など)まで、幅広い要素がここには収まります。

セッション時の運用

  1. PCと関わり、その反応を引き出す
  2. 道を阻まれれば、対立か協調、あるいは変容が発生する
  3. NPCの対応をPC一律にしない
  4. 状況のタイマー管理を行う

 NPCはその動機を単純に追い求めます。先の設定から、目的達成の過程でPCとの関わりが不可避となっているはずです。これは彼らの持つ手段に応じて、直接的な接触から、裏で進行している謀略に至るまで、様々な形をとるでしょう。積極的にPCの進路と交差させて、彼らから反応を引き出してください。レスポンスを元に、シナリオの展開に動的な変化をもたらすのです。
 一方、PCの関与により、NPCの歩む道にも起伏が生じることでしょう。行く手を阻まれたNPCがとるべき道は、大きく分けて「対立」「協調」「変容」の三つです。対立をとるなら、PCたちを力ずくで排除しようとするでしょう。PCの対応によっては、互いに協力できると認識するかもしれません。その場合は、PCたちと協調して動機の追及を行わせてください。無論、彼らの目的はそのままですので、協調の後に対立へと至ることもあるでしょう。
 持てる手段ではPCたちを排除できなかった、あるいはPCたちとの接触の結果、目的の変容が起こることもありえます。変容は「目的は変化しないが、用いる手段を変える(大抵はPCたちを害さない穏健なものに)」「次善の策や、PC提案に従う形で、目的そのものがシフトする」「少なくとも現時点では手を引く」などが代表的なものでしょう。ルールに沿った処理、またはそれまでに形成されてきたセッションのフィクションに則り、適切な変容をもたらして下さい。
 NPCをより複雑で人間的な存在に仕立てようとするなら、PCへの反応を画一化しないことです。立場上特定のPCとのみ対立し他のPCとは友好的だったり、逆に一人だけには心を許していたり、変化をつけてください。ハンドアウトなどで仕込んでおくのも、セッションでの出会いから決めるのもありです。ひょっとするとPC間に思惑のすれ違いや、緊張感の種を蒔くことになるかもしれません。それがまた、セッションに新たな展開や、興味深い要素をもたらすことになるのです。
 とはいえ、NPCを動的に扱う手法には、一つの欠点があります。落としどころ、あるいはクライマックスが読みにくくなり、ともすればセッションがだらだらと長引いてしまう危険があるのです。なので、NPCの計画の進捗や、別途に進行している危機を、何段階かのタイマーとして表記しておくといいかもしれません。タイマーの初期は軽微な事件や兆候を、最後にはカタストロフィを記載しておきます。運用時はPCの行動を見つつタイマーを進め、そこに記載されている事件やイベントを発生させてください。
 タイマーは1〜3個で十分です。PCの活躍によって、それ以上の進展が起きない危機のタイマーはそこで停止させます。全ての危機を阻止できたなら、締めとなるシーンを挟んでセッションは終了です。阻止に失敗したなら、最終的な破局を目前にしたクライマックス・シーンを立ち上げるか、破滅的な事態を発生させてください。時にはPCが自ら進んで、この終末時計を早めることも起こるかもしれません。それもまた愉しです。

参考

 『深淵』『In a Wicked Age』『Apocalypse World』などのGM手法を大いに参考に書いてます。というか主に、Apocalypse Worldの方法論から拝借してます。悪しからず!