断片の物置、跡地

記憶の断片が散乱するがらくた置き場

9/19の覚え書き

 京都深淵CONにGMとして参加してきました。

準備

 実のところ、当初の戦意は低めでした。
 RPG的に忙しい時期と被った(その前週はサークルでGM、前々週はJGCに参加、10月上旬には合宿)のもあり、小休止を挟もうと目論んでいたからです。また、深淵自体をほとんどGMしなくなっていた自分の実情もあわせると、初のコンベンションGM(RPG経験は短くないけど、サークル引き籠もりなので)を引き受けることに気後れもありました。
 そんなわけでシナリオの準備に着手すらしていなかったのです。


 が、二週間前。
 JGCから帰宅後、京都深淵CON主催の方から参加の是非を確認するメッセージをいただきまして。
 ちょうど、超身内MLにJGCの感想を投げた際に付記したところ、煽った方が一人。
 それで妙な闘争心に火がついたので、思わず参加を申し入れてしまいました。


 と言っても、その週はサークルの例会でApWをGMする予定だったので、深淵CONのシナリオにはほぼ手をつけず。
 その時点では「意志を持たぬ妖精騎士が人の子をかき回す」ぐらいでいいや、程度の目算でした。深淵から離れていたこともあり、そこまで情熱高くなかったんですよね。なので、PCに1つの運命をつけて取っ掛かりだけを与え、あとは渦型ライクにさばけば無難にこなせるという読みでした。

 
 しかし、直前になって少し真面目に取り組むことになります。
 コンベンションで与えられた時間を1時間勘違いしていたので、それへの対処を行うため、ある程度のバックストーリーと道筋を考え始めたのが切っ掛けでした。シナリオの記述も、ApW方式+PCたちが取り得る行動を幾つか想定しておくというものに切り替えました。深淵は「失敗しない」ことが前提のシステムなので、ApWと方向性は異なりますが、自体がどのように転ぼうともNPCと周辺状況の流れを把握できる利点は有用だと思いました。
 結局、ハンドアウトやらひねり要素やらを準備していたら、シナリオを書き出すのが前夜になりまして。
 緊張もあって、30分程度しか睡眠がとれないまま、会場へと向かいました。

とちりと幸運

 そして、シナリオ紹介でいきなり蹴躓きました。
 普段も20人近くの前でシナリオ紹介を行っているので余裕だと思い、メモすら持たず向かったわけですが、見ず知らず40人の前で口を開くのは思った以上に緊張。久々に頭が真っ白になり、つっかえる、言い間違えるを繰り返す醜態をさらしました。
 これだと人が来ないかも落ち込んでいたところ、まずは3人、次に人数不足の卓から1人の、計4人が集まりました。
 キャラ作成中にお話を伺ったところ、うち3人は同じサークルの顔見知りとのこと。もう一方も、積極的に他PCに絡んでいかれるスタイルでした。
 PC同士のコミュニケーションを重視している自分としては、非常に幸運だったといえるでしょう。

PC用ハンドアウト記載の地域情報

ティベイラ
 ダニシェリア山系に根を張る小国。かつて武勇を誇り、妖精騎士から直接太守として任ぜられたとされる。だが、森に巣くう妖魔たちとの戦いや、周辺国の思惑に国力をすり減らされ、今や斜陽にある。嫡流の最後の一人である現太守キルシアは、女ながらも剛胆な野心家であるとされる。


ウスバカゲロウ村
 ダニシェリアの山々に抱かれる村。ティベイラに属する。だが、国力が衰え定期的に妖魔から庇護する余力を失ったティベイラとその太守に忠誠を抱くものは少ない。定期的に傭兵団を雇い入れ妖魔への備えとしており、独立独歩の機運が高いと言えるだろう。遙か昔、魔族と相打ちになった妖精騎士が手当を受け、息を引き取ったという伝承が伝えられている。半日ほど離れた森の中に、その騎士を祀る祠が作られたという。


とりで
 村から見渡すことができる森の一角には、新月の晩に暗闇に包まれた砦が姿を現す。見張り塔に月光に似た涼やかな灯りが見られるが、砦は沈黙に包まれている。言い伝えによれば、これは妖精騎士の砦だったとされる。学院によれば砦では、五百余年前の戦いの後、傷ついた妖精騎士が最後の戦いに備えて眠りについているという。安眠を妨げられることなきよう、砦は現世と深淵の狭間に隠されたとされているのだ。


NPC
キルシア 女性 20代はじめ
 ティベイラの現太守。華やか容貌の内に野心を秘める。
ヌアム 男性 40代半ば
 ウスバカゲロウ村の長。反骨心溢れるが体は衰えつつある。
ギルダーナン 男性 30代前半
 村が現在雇っている傭兵団の隊長。小男だが機転に長ける。
白痴の妖精騎士 妖精騎士?
 村に匿われた白痴の貴人。虚ろな瞳は魂を失ったかのよう。

シナリオに記述した背景

(注:自分用の書き飛ばしで、一部は使いませんでした)
 人形使いラプティークが人の子を惑わせるために編み上げた、妖精騎士の姿をした大いなる人形。だが、姿や力はまねることができても、それに見合った偽りの魂を吹き込むことは叶わず。長らく放置されるに至った。
 夜の大公マナリーは、神征期に降伏し、闇そのものに封印されてしまった。千々に広げられたその意識は繋がりを見いだすことができず、時に人の子に悪夢をもたらす程度に脅威になり果てたのだ。指輪の戦いの際、冥王その人によって復活が試みられたが不完全であり、白の妖精騎士オルクウェスと相打ちになりダニシェリアの山中に霧散する。新月の夜のみ姿を現す「とりで」は妖精騎士を最後の戦いに備えて休ませるばかりでなく、夜の大公の監視も兼ねているのだ。ティベイラの太守の一族には、彼らを呼び起こすための角笛が伝えられ、太守の直系にしか伝えられぬ秘密の言葉がなければ開かぬ、八つの面を持つ奇妙な箱に封じられているという。夜の大公の残存意志の一部分は、希薄な無貌の巨人として、苦痛を抱きながら相打ちとなった妖精騎士を探し彷徨っている。
 ラプティークは、騎士の姿をした人形を放ち、騎士の帰還を人々に知らしめることで、夢と夜との狭間を彷徨う夜の大公を帰還させようと試みる。ダニシェリアの地は、偽りの物語と接合する、またとない伝承を備えていた。かくて白痴の騎士はウスバカゲロウ村に降り立ち、人々に奇跡と喜びをもたらす。人々の歓喜の声は、一族の失地回復を願う女太守を呼び寄せ、村と国との対立を燃え上がらせ、才知に長けた傭兵隊長につけ込む機会を与える。もたらされる混乱は人形使いに存分な愉悦を与えるものであろう。そしてその影では、夜の大公が迫りつつあった。灯りに引き寄せられる羽虫のように、人々の夢うつつの中に宿敵の復活を見いだして。報復の意志のみを胸に抱く希薄なる無貌の巨人としての姿で眷属を引き連れながら、マナリーは村の砦柵まで至ろうとしていた。
 そこに居合わせた運命に翻弄されしものたち。それが今回のPCとなる。彼らは希望と破滅、どちらをもたらすのだろうか?

PCたち

 今回はPCに5つの立場を選んでもらい、それぞれ2つのテンプレートから1つをプレイしてもらう予定で準備しておりました。運命は1つめがテンプレートにより固定、2つめはルールに沿って決定です。
 しかし、会場でR&R誌掲載のテンプレートのコピーをほぼ収録したファイルをお借りできたため、立場に見合った好みのテンプレートがあれば変更してもよいとしました。
 そしてできあがったのは次の4人。


立場:女太守の婚約者
PC名:アドルフ・セイグレイド
テンプレート:能吏(男性)
運命:悪意の噂(→愛するものを滅ぼす)、恐怖症(雨風の音を恐れる)
設定:政治的な婚約のため女太守への愛情は薄い。浮気性の貴族であった父が母に辛く当たるの幼少期の陰惨な記憶が、雨風の音と結びついて、恐ろしいと感じてしまう。


立場:村の住人
PC名:オクタール
テンプレート:狩人(男性)
運命:幻視、過去を失ったもの
設定:子供時代に記憶の空白があり、妖精騎士に連れられて新月の夜のみ現れる「とりで」に行ったと信じている。以来身についた幻視の力により村ではもてはやされるが、本人は冷めた様子。


立場:放浪の知恵者
PC名:レアナ・フレヴェール
テンプレート:通火の魔道師(女性)
運命:魔法の力(多彩の瞳)、不義の子
設定:学院からの命もあり、現地調査に赴いた魔道師。貴族の娘であるが、母の不義によって生まれた子であり、父からは忌み嫌われてきた。父の憎む相手、彼女の本当の父は「女太守の婚約者」であるアドルフの父親と同一人物である。


立場:傭兵団の一員
PC名:ヴァルベルガ(ベルガー)
テンプレート:歩兵(女性)
運命:故郷を失った、深淵の召喚
設定:故郷を無貌の巨人によって滅ぼされ、傭兵として各地を放浪している。故郷の村が破壊された際に、溢れ出た深淵に巻き込まれて以来、無意識に深淵を呼び出してしまうことがある。


 「女太守の婚約者」と「放浪の知恵者」の関係は、プレイヤーのお二人が構築されました。プレイヤー同士が馴染みだったため、遠慮なく付記していただきました。GMは微調整(放浪の知恵者の父親を死亡済みにしてもらった)しただけ。
 通火の魔道師は、ハンドアウト記載以外から選んでいただいたテンプレートです。妖精騎士が絡むからぴったりとは思ったのですが、幻視の力(村の住人の固定運命)が被るため外していました。結果的に、導き手と導かれるものという色分けができたため、特に問題はなかったかと。


 なお、プレイヤーにはいいませんでしたが、運命決定の際は「魔剣」「魔族の血」「死の約定」「運命の介添人」の4枚は除いてました。背景と関係ない強烈な動機や力は合わないと考えたからです。

GMの目標

 コンベンションで初GMということもありまして、幾つか目的を設定していきました。

  • PC同士のコミュニケーションを中心としたセッション
  • セッションを4時間に収めて密度の濃いものを目指す
  • ネタはわかりやすく、情報はばらしすぎるぐらいで
  • キャラクターを確立してもらい、雰囲気に呑み込む

 結果的には全て達成できました。あー、でもネタは無駄に込み入っていたかもしれない。がんがんとプレイヤーに提示したから、混乱は起きませんでしたが。

本編

 オープニング夢歩きは、キャラクター確立の機会なので、長めに尺をとりました。
 PC4人で30分きっかり。一人平均7.5分の間、他のプレイヤーは見ているだけとなります。
 自分のサークルではもっと長い時もあるのですが、コンベンションでこれを行うのは賭けでした。開始時点では、まだ緊張が解けておらず、危険度も高かったと思います。幸い演出している間に舌に油がさされ、いつもの半分ぐらいは出力できるようになりました。


 GMとしての思惑は、オープニングで自分のキャラクターを把握すると共に、他のPCに興味を持ってもらうことでした。それが互いの交流を誘発するとの考えからです。
 この試みは、おそらく成功したと思います。
 プレイヤー中3人が顔なじみであったことにも助けられた面もあるでしょう。


 オープニングが終わるまで、GMは該当プレイヤーに提案し、話を引き出しつつ、それがシナリオ内容と関係性を持つよう演出。喋り通しです。
 それが一転、オープニング終了と共に黙って、PCたちの動きに対応するのを中心としました。
 そしてPCたちは・・・に活発に行動し、互いのコミュニケーションを密に仕始めたのです。
 ほっと一安心。


 本編の間、GMとして注力したのは、プレイヤーがどのような展開を望んでいるかすくい上げ、それを(時にはひねりを加えながら)状況に反映していくことでした。夢歩きも、「PCの置かれた状況から妥当なもの」や「GMが望むもの」よりも「プレイヤーの望み」を優先する形で構成しました。ぶっちゃけて聞いてみることも厭わない姿勢で。
 今回はPC関係を結んでおくことで有利になるハウスルールを用いたこともあり、しばらくすると「PCが情報や状況の変化を知る->他のPCと相談しつつ、どう動けばいいのかプレイヤー同士話し合う->その結果を踏まえてGMが新たな展開をもたらす」というサイクルができあがりました。
 感想によると、「みんなで物語を作っていく」感覚を抱いてもらえて、かつ楽しんでもらえたようです。


 PC同士の関わりが密であった分、展開したストーリーを一口でまとめることが難しいのですが、大筋は次のようなものでした。


 白痴の妖精騎士を発見しつつも村人とは距離を置くオクタール、自らの故郷を滅ぼした夜の妖魔がこの地に迫っていることを知ったベルガー、白痴の騎士に魅入られた女太守を早々と見限り権力奪取に動くアドルフ、父の遺志に呪縛されつつ白痴の騎士の正体を見極めようとするレアナ。ある意味、必然的な出会いを果たした彼らは、程なくオクタールの猟師小屋で会合を持つ。
 夕暮れ時、彼方に姿を現す無貌の巨人。ベルガーはそれを仇と認識して、村での騒乱を止めて対処に当たろうとする。
 レアナの導きで空白の過去の夢へと旅だったオクタールは、とりでの最深部で黒き槍を見いだす。それに触れ目覚めたオクタールは、すぐに強烈な違和感に襲われる。全てが自分が夢に入り込む以前と異なっていた。そう、自らの体すらも。彼は今、白痴の妖精騎士の体を通してものを見て、身体は意のままに動くと気がついた。
 夢に残されたレアナは更なる深へと足を踏み入れ、人形を放った人形使い、すなわちラプティークと邂逅する。レアナは白痴の騎士の正体までも目にするが、父の望んでいた復讐に手を貸そうというラプティークの甘言に心動かされてしまう(追加で引いた運命は「支配者」でした、南無)。
 アドルフはレアナと自分が外見的な類似以上の繋がりがあると確信。親しみを感じ情をよせていくことになる。
#この時の夢歩き、超越幻視が3人でした


 オクタールはすぐに本来の体に戻るが、妖精騎士の姿で起き上がり女太守と話を交わした後だった。
 一方村では、女太守が無理矢理奪った白痴の騎士を巡り衝突が起き、村の代表負傷するに至る。もはや衝突は避けられぬと見えたが、ここでアドルフが自らが彼らの代理として動くので矛を収めるよう、懸命の説得を成功させる。これは、婚約者を太守の地位から引きずり下ろすという決意を口にしたも同じだった。
 太守側は傭兵隊を自らの陣営に引っ張ろうとし、傭兵隊長は両者の綱引きでうまい汁を吸おうと舌なめずり、という状況も発生していたが、こちらは隊の副長格であるベルガーが対処。アドルフについて行くことで、命がけの傭兵家業から足を洗い、立身出世への道が開けると説き、こちらも抑え込みに成功。
 半ば自らの意志で空っぽの妖精騎士の体に再度入り込んだオクタールは、女太守の悲願と、とりでに眠る騎士たちを起こすことができる銀をあしらった角笛を、彼女が所持していることを知る。吹き鳴らすためには儀式が必要で、吹き手は妖精騎士であらねばならぬことも。ただ、この時に妖精騎士たちを起こしてしまえば、彼らは遠からぬ未来に巻き起こる「最後の戦い」には参戦できないことも理解する。
 そんな中レアナは一人、ほぼ全ての事の真相を知る身となる。ラプティークは現状を利用し、人の子の魂が入り込んだ妖精騎士の人形に、偽りの黒き槍をとらせ、夜の大公との戦いで敗れ去るように仕向けるつもりだった。ラプティークはレアナに、その茶番の導きを命じた。みなに知らせるべきだとレアナは心の底で思いつつも、そうするには束縛するものが多すぎた。彼女を縛るのは亡き父への想い、そしてより危険な人形使いの操り糸。


 そして、夜。今宵はまさに新月の夜であった。
 月光に似た輝きを放つ「とりで」の見張り塔を彼方に、レアナはアドルフを殺そうとするが・・・アドルフのやさしさ、境遇の類似、なにより本心に反する行いをとることはできなかった。同じ父を持つ兄妹として互いを認め合い、レアナは人形使いの黒髪が絡みつく短剣を捨て、アドルフに村で起こっている真実を告げた。絡みつく人形使いの髪が傷を負わせるのも厭わず。その姿を見て、アドルフは彼女を守ろうという意志をますます強くするのだった。
 一方、意識を失ったオクタールの体を猟師小屋まで運んだベルガーの前に、妖精騎士の体を纏ったオクタールが現れる。瞳覗き込んだベルガーは、すぐにその中にオクタールを認める。故郷の悲劇を繰り返したくないベルガーの願いは、オクタールとて同じだった。空白の過去を埋めるため、レアナをまねて再び自らの奥へと潜ろうとしたオクタールは、そこで溺れてしまう。そこに手をさしのべたのは、ベルガーだった。二人は互いの想いを知り抱擁する。
#PC同士の縁故が役立つハウスルールもあってか、カップル2組誕生
#共に完全にプレイヤー側からの提案であり、前者の二人は小休止の間に話を詰めていたようでした
#後者の二人は・・・君ら、超越幻視しすぎ!


 この時点でプレイヤー間の話し合いがもたれる。
 プレイヤーの考えた展開は3つ。
「妖精騎士の人形を破壊し、夜の大公を引き寄せる目印を失わせる」
「角笛を吹き鳴らす儀式を行い、とりでに眠る妖精騎士軍の力を借りて夜の大公と戦う」
「とりでに出向いて最深部の黒き槍をオクタールが回収、夜の大公と雌雄を決する」
 オクタールのプレイヤーの願いもあり、彼らが選んだのは3番目の、おそらく一番リスクの大きい賭けだった。
#GMは最終局面として6つのパターンを考えており、
#PCの行動次第では即興で追加するつもりでした
#結局、プレイヤーの考えた3提案は想定に入ってました


 妖精騎士の姿をしたオクタールが「とりで」の前に立つと、跳ね橋が降ろされる。
 中は、入り込もうとしたものたちの哀れな遺骸が残され、奥へと歩めば、眠れる騎士たちの夢へと巻き込まれることとなった。壮麗な妖精騎士たちの軍、あるいは巨人と魔族の戦い。機転でその合間を縫い逃れることに成功したPCたちは、ついに最深部へと至る。
#夢歩きを利用した簡単なゲームを行いました


 夢とは違い、そこには二本の黒き槍が安置されていた。一本は大いなる力を持つ秘宝、もう一本はラプティークが準備したまがい物。真贋を知るはレアナ一人。
 レアナは先の経験から、ラプティークに逆らえば死が待ち受けているとわかりつつも、本物を指す。
 こみ上げる苦痛に身をよじる彼女にアドルフが駆け寄り支えるのだが・・・レアナに触れたアドルフはラプティークの言葉を聞く。アドルフがレアナの代わりに、人形使いの操り人形になるのなら、レアナの命を助けてやる。それどころか解放してやろう、と。想いにつけ込まれたアドルフは、一も二もなくこの提案を呑む。
 そして、レアナは、父の呪縛からも、ラプティークの束縛からも逃れ自由となった。その操り糸がアドルフに絡みついているとは知るよしもなく。
#先の夢の迷宮の際、アドルフのプレイヤーが1ゾロを振りまして
#運命を受け入れることで振り直し、突破した訳ですがその運命が・・・
#こともあろうにまたもや「支配者」! GMもびっくりです
#まさにレアナの運命がアドルフに手渡されるというシーンができました


 オクタールが真の黒き槍を手に取ると、彼らを取り巻いていたとりでは砂のように崩れ・・・気がつくと跳ね橋が降ろされる前の位置にみなはいた。もちろん黒き槍と共に。
 その姿を宿敵と認めた無貌の巨人がついに目前に現れ、ここに戦いが始まる。
 荒れ狂う嵐のような巨人の力に苦戦するPCたち。巨人の叫びはみなの心を凍らせ、さらに足下の影より夜の眷属が這いでて牙を剥いた。その上、黒き槍は全ての力を振るえているわけではなかった。なぜなら、槍を持つのは妖精騎士の体であっても、その魂はいまだ人間だから。オクタールの魂が、鋳型である体にふさわしいものに変容したとき、槍も真なる力を発揮するのだ。
 何度も騎士の体に入り、その力を用いたオクタールの魂は徐々に変化しつつあった。受け入れれば、魂までもが体に見合ったものになるとわかってはいた。それでも、彼は踏みとどまろうとした。なぜなら、人の子であることを完全に捨て去ることは、ベルガーへの愛を捨てることと同じだと気づいていたからだ。妖精騎士には人の子を慈しみ守る義務感はある。だが、人と人との間に生じるような愛が入り込む余地は彼らの魂にはなく、また芽生えることもけっしてないのだ。
 それを理解しつつも、オクタールは最後の一歩を自ら踏み出し、槍の力を引き出すこととした。
 ベルガーを守るために。恋人を守るために、愛情を捨てる選択を行ったのだ。
 真価を示した黒き槍の力は凄まじく、おぼろな無貌の巨人はほどなく胸部と頭部を破壊され、砕けて闇の奥深くへと消え去った。マナリーが再び何らかの形を手に入れるのは、当分先の未来となるだろう。
 妖精騎士は蘇り、夜の妖魔は居場所へと帰った。人形使いの企みは、その思惑を越えて広がり、彼女の放った虚偽は人の子の物語を通して、真実となった。語り継がれることはないだろう代償を伴って。


#「力を用いるたびに白痴の騎士の縁故1振ってね」と最初に騎士の体に入ったとき告げてました
#「5点になると魂まで妖精騎士になって、人の子としての感情は失われるよ」と事前警告済み
#この時点でオクタールの白痴の騎士への縁故は4点
#「黒き槍は効果値7+貫通とあるけど、現状では効果値4のみだよ
#縁故が5点になれば、記載されているデータになるけどね」
#「踏み越えればどうあっても戻れないんですか?」「うん、不可逆」
#その上で「縁故5にしたくなったらいつでもいってね。その時点で槍のデータ変わるから」
#とニコニコしながら口にしていた、優しい悪意溢れるGMでありました
#そして、無貌の巨人への一撃が大成功で突き刺さり効果値5、4枚までめくったところで
#山札から「叙事詩に残る一撃」が出現、即座にGMは槍の件を再確認します
#無貌の巨人は召喚値100であり鎧は二重、オクタールの手持ち貫通は1枚
#槍の力を引き出せば、もちろん自動で貫通がつき、鎧を貫くことができます
#偶然が狙ったかのような、あまりに全てが噛み合った瞬間をもたらしたのです
#結局、PC全体への影響値攻撃が強烈過ぎて長期戦は危険すぎるとプレイヤーが判断
#縁故に5点を振って、無貌の巨人を粉砕したのでありました

エピローグ

オクタール:妖精騎士となって、女太守をお役ご免に。新たな太守としてベルガーを任じる。その後、とりでの周辺を飛翔し森に入ったとき、人の子の猟師であった時の記憶を思い出す。だが、そこには人間らしい感慨はない。大切なものを守るため、あまりに大きな対価が支払われたのだ。
#オープニングで森に入ると安堵を得るというシーンがあったのでつなげました


ベルガー:ティベイラの新たな太守となって、仕事に勉学にと、非常に多忙な日々を送る。彼女は待ち続ける。いつかはオクタールが心を取り戻すと固く信じて。妖精騎士のとりでを彼女は目にして、その上を飛翔するオクタールを見送るのだった。
#二人道はまたどこかで交差するかもしれませんが、それはまた別の物語でしょう


レアナ:全ての束縛から逃れ、アドルフとともにあろうと誓う。彼が旅に出るなら同行する覚悟もあったが、ティベイラに残るようなので、共に屋敷へと歩む。そして、兄妹としての優しい抱擁を交わす。彼女にとっては、そのぬくもりこそが全てであった。だが・・・
#赤カードの夢歩きがあまりにぴったりな結末でした


アドルフ:抱擁の相手アドルフが、既に人形使いの見えぬ糸で束縛されていることを、レアナは知るよしもなかった。アドルフが国に残ったのは、自分がラプティークに全てを明け渡す前に、国を立て直して魔族の影響が国全体に及ぶことをさけんがためだった。新たな太守となったベルガーとの対面で、いまだ政治的影響力のあるかつての女太守と和解することを提案されるが、アドルフは了承しかねてしまう。既にがんじがらめなのだ。太守の部屋を出て、取り立てられた傭兵隊長からねぎらいの言葉を受けた後、彼は回廊を彷徨う。その耳にはラプティークの言葉が響く。「我の糸が国全体を絡め取るのが早いか、お前が断ち切るのが早いか、試してみようではないか。ひょっとすると、お前が逃げ切ることだってあるかもしれない。・・・こういった遊戯が好きなのだろう?」そして笑い声。長らく権謀術数渦巻く世界に身を置いてきたアドルフは、この言葉を聞き、どのような想いを抱いたのだろうか?
#締めはやっぱり魔族ですね、最後はGMノリノリでした

終わりに

 最終的には、小休止3回を挟んでちょうど4時間ほどで終わりました。
 PC同士のやりとりは非常に活発で、かなり密度の濃いセッションだったと思います。上記のまとめからも、オープニング以外にも割愛しているシーンが、いくつもあったり。
 寝不足と緊張から来る内心の震えも、後半にさしかかる頃には消えて、GMとしてもほぼ本調子となりました。最後の方は、カードを読み上げる際に、プレイヤーの視線がぐっとこちらに集中するのを感じることができたので、プレイヤーの皆さんをそれなりに引き込めたのではないかと。


 本編まとめだけだと、シリアスな雰囲気を維持したように見えるかもしれませんが、実際は笑いの絶えないリラックスしたセッション風景でした。自分のサークルでのGMスタイルがまさに、プレイヤーが何度も笑いながらセッションは緊張感を状況を維持する、というものなので、うまく再現できて何よりでした。
 セッティング以外はほぼ即興(PCが人形の騎士に入り込む展開は想定してデータを手渡せるようにしていたけど)だったにも関わらず、そこそこプレイヤー提案の設定や行動を拾って、展開に反映させることができたと自負しております。偶然が噛み合って、PCたちが鏡写しのように置かれた立場を入れ替えていく様は、楽しかったですよ。
#ぶっつけ本番の即興性の高いシナリオにしては、カチカチとはまりすぎて気持ち悪いぐらい


 とはいえ、サークルの方のプレイヤーとは文化が違うので、GMとしての手触りもまた異なります。
 サークルの方だと、気が緩むためGMとしてもついつい遊んでしまい、自らの楽しみを追求することすらあるのですが、今回は終始緊迫してプレイヤーへのサービスに努めました。仲間うちのだらけた空気も心地よいものですが、たまには初心に返ることの重要性を再認識した次第です。
 プレイヤーに楽しんでもらえた様子だったのが、本当になによりでした。


 参加者が互いの感想を書き合うスタイルの感想用紙は、参加者全員の合意で用いず。充足した記憶で十分との話になりました。
 終了後の待ち時間で、緊張が弛緩すると、眠気の虫が騒ぎ始めたので、打ち上げは参加せずに帰宅しました。
 RPG的ひきこもりを当面続けるだろうし、次に外でGMするのがいつになるかわかりませんが、貴重な経験をさせていただきました。その上で、セッションが成功裏に終わったことは、GMとしても喜びでした。


 参加者ならびに主催スタッフのみなさま、お疲れ様でした。