断片の物置、跡地

記憶の断片が散乱するがらくた置き場

Apocalypse Worldにイノベーションはあるか?

 先週、Apocalypse Worldのリーリス版をプレイしました。退廃と暴力と過激さで満たされ、同時にエネルギーに満ちた終末世界を表現する、楽しいセッションとなりました。
 サマリーを作っただけでは見えてこなかったルールの仕掛けなど、実際にプレイすることで、多くのことが理解できたと思います。個人的には妙に手に馴染む印象を受けました。
 そんなわけで、ごく個人的なファースト・インプレッションを簡単に書き散らかします。


 まず、AWはいくつかの特徴を持つシステムですが、同時にインディ系のRPGによくみられる、インパクトの強い機構に欠ける印象があります。
 例えば、Dogs in the Vineyardだと、Conflict Resolutionとそれを支えるダイス機構が、強烈な個性を与えています。あるいは、モルモン教的な宗教がユタ州を実質支配する架空のアメリカ西部劇世界と、異端審問官というPCの立場もユニークです。
 対して、AWで用いられるのは、一見単純な2D6上方ロールに見えます。ポスト・アポカリプスな設定も、洋物RPGでは手垢のついたテーマです。
 そのため最初にプレイテスト版のPDFを流し読みした時、僕は戸惑いました。これまで印象的なテーマを、スパイスの効いたルールでさばいてきたデザイナー氏が作ったものとあっては、尚更です。


 私見だと、AWは「GM手法を厳格に定義し、その上に適したルールを載せたシステム」だと思います。その目的とするところは「セッションを通して参加者が共有するフィクションを構築し、キャラクター視点に立った行動が紡ぐ、予測不能で荒廃した世界にぴったりのストーリーを楽しむ」ことなのでしょう。
 ただ、これって伝統的なRPGでも、マスタリングとプレイヤーの方向性によっては、実現できたことなのですよね。特に、自分が属しているサークルが基調としているRPGのあり方と、共通点が多いのです。だからこそ、余計に新鮮味が感じられなかったのでしょう。 
 実際、セッション後の簡単な感想でも「一般的なRPGとさほど変わらないんじゃないか」との意見をいただきました。プレイヤーに見えるところでは、ことのほか特徴が薄いようにうつるのかもしれません。


 AWで用いられているプレイヤー用のルールは、シンプルさと工夫が同居したものです。
 しかし、一つ一つのパーツは、既存のアイデアを進歩させたものばかりです。
 たとえば、ロールのベースとなっているのは、デザイナー氏自らが考えたOtherkind Diceの手法を研磨した代物だったりします。プレイヤーブックというアイデアは、天羅万象などで使われていたアーキタイプに非常に近しいアイデアだと思います。そして、幾つものインディ系RPGからArs Magicaまで、様々な影響元が後書きには記載されいるのです。
 磨き上げられたアイデアは輝く宝石となっているのですが、いかんせんいずれも小粒です。大粒のダイヤを期待すると、拍子抜けするかもしれません。


 AWには進歩はあっても、革命はない。


 少なくとも、プレイヤー目線、あるいは従来から類似した手法を用いてきたGMにとっては、そうだと思います。
 だからこそ、先日のセッションでは少し驚きました。実稼働させると、システムの歯車一つ一つが巧みに噛み合い、比較的容易にこのRPGが目指す方向へとゲームが展開していくのです。しかもプレイヤーに与える違和感は最小限で。
 ゲームのありようとしては、ストーリー・ゲームから、分化前の90年代のRPGに回帰している印象すらあります。馴染みやすいシステムだと僕が感じた原因は、そのあたりにもあるのやもしれません。
 なので、RPGを遊んでいるグループの方向性さえあっていれば、是非とも遊んでいただきたいシステムです。