断片の物置、跡地

記憶の断片が散乱するがらくた置き場

HQ2シナリオの基本セッティング

 見直すと、自己満足が主で広がりのない設定です。
 本編は、これを元に三者の思惑が交錯する追跡劇を構成しようとした代物です。
 主に自戒のため貼り付けておきます。
#主に自分用なので、読みにくくてごめんなさい。


●セッティング
場所はサーターの外れにある砦柵。ルナーの支配が確立して20年近く、植民も進みつつある。だが、ヒョルト人は屈しているわけではない。PCが属するのは周辺に根を張る氏族であり、周辺は山がちな地形(一応マップも準備)。PCの立場は氏族から集められた若者たちとなる。


この地は、呼び込まねば豊かな夏と、それに続く実りある秋が訪れることがない。とらわれたアルドリアの娘をオデイラが救出し、それがこの地に夏と秋をもたらしたのだとされている。


全身に灰を塗りつけ闇夜に紛れ、石牢に至ったオデイラは扉を開け放つ。だが、怯えきった娘は(灰塗れの狩人を見分けられず)獣の皮を身に纏い、そのまま獣に転じ、暗闇の中へとかけだしてしまう。オデイラはその後を追い、立ちふさがる試練(三つの試練)を乗り越えることで、ついに娘を捕らえて正気に返す。彼女が逃亡の道すがら地にこぼれた種子は、追いすがる狩りの神に踏みつけられ、彼の汗と共に流れ落ちた灰と混ざり合って地中に埋め込まれる。これが芽吹き、大地に緑豊かなる夏と、それに続く実り多き秋がもたらされたのだという。


伝えられる三つの試練は以下のようなもの。
第一の試練は惑わしの森。草木が姿を変えることで、狩人を閉じこめようとした。狩人は梟に道を聞き、これを脱した。森は人を閉じこめること叶わぬと知った。第二の試練は凍える河の乙女。凍えた体を温めぬと河を渡ることあたわず。狩人は蜂蜜の酒を共に呑み、河の水を温めた。以降、流れる水は人の通いを妨げることが無くなった。第三の試練は獣との戦い。狩人は父なるオーランスより戴いた鋼の剣と交換に、貪欲なる石の翁から鉄の枷をもらう。狩人は枷を用いて獣を組み伏せ、その腹を割く。そこより娘は出で我を取り戻す。二人は結ばれ、草木は青々と生い茂った。これが夏と秋そして氏族の起源とされる。


それを模した儀式は次の通り。
夏至の夜(あるいは春の終わりの夜)に、全身に灰を塗りつけた氏族の若者数名が集められる。祠に封ぜられた石牢には、この晩だけ狼のごとき姿をした巨獣が姿を現す。その体毛に無数の植物の種子が絡みつけて。夜半には牢が開かれ、解き放たれた獣を若者たちは追わねばならない。彼らの使命は、獣を見失わぬよう追跡し、立ちふさがる三つの試練を乗り越えて獣を追い詰め、夜が明ける前にしとめることである。
十分な追跡が行われなかったり、額に汗する手間を省く策略を用いた場合などは、獣を仕留めてもその年の夏と秋は力乏しきものとなる。もし獣を逃がしてしまったならば、夏も秋も色あせ、山と大地の恵みは大きく損なわれてその年は飢饉となる。実際、平均すると十年に一度は狩りがうまくいかず、少なからぬ餓死者を出す結果を生んでいる。首尾良く儀式を成し遂げれば、ドラゴン・パスでも有数の恵みがもたらされるのだが。
自らの汗で全身の灰を洗い流した者には大いなる栄誉が与えられる。神話と同じく、獣を娘の姿に戻して連れ帰り、嫁御にした若き狩人もかつては幾人かいたとされるが、この数百年は確認されていない。もしも元に戻すことが出来れば、彼女が存命のうちは儀式なしでも季節が巡ったとされる。


入植と同化政策を進めるルナー帝国にとって、この儀式は二つの意味で頭痛の種となっている。
帝国がこの地に足を踏み入れて既に三度の夏が来ぬゆえの飢饉を経験している。入植地は食糧危機に陥り、蓄えのある氏族を頼るもすげなく拒絶され、逃散が発生。そんなわけで帝国民の植民が遅々として進まないのだ。
また、この儀式と飢饉への備えが、氏族のコミュニティを強固なものとしている。アイデンティティのよりどころともなっているため、切り崩しなどを含めたルナー化は困難となる。
女神からの啓示を受けた帝国軍は、儀式をより穏健で帝国にとって都合の良いものに置き換えようとしている。女神の代理である少女が獣を友に、種を蒔いて歩く、そんな儀礼的なものへと。魔法的な力は弱められ、これまでのようにずば抜けて豊かな地では無くなるだろう。だが、儀式の失敗により不定期な飢饉がもたらされるよりは、人々はずっと安定した生活を享受できることだろう。加えて、ヒョルト人の拠り所である儀式を月の女神がものとすることで、氏族の結束が弱まっていくことも期待できる。
そのために帝国は、軍と少女を派遣することとなった。彼女はかつてこの地の氏族に属していた者(PCたちの旧友)であり、地域の伝説に入り込む上での親和性が高いと判断された。もちろん、氏族の指導者たちは帝国の儀式への介入など認めるわけがない。そのため、軍の力を用いて強制的に儀式を乗っ取る運びとなった。


そしてもう一方、今宵の儀式に関わりを持とうとしている者たちがいることに、氏族も帝国も気がついていなかった。
それは北部から逃れてきた滅びかけのウズの部族だった。混沌の勢力との戦いに敗れ、一族の中核を失って滅び行く者たち。彼らは年ごとに移住を繰り返しながらこの地近くまでやって来た。自分たちに伝わる神話に一縷の望みを賭けるかのように。
彼らに伝わる物語はこうだ。
トロウルの宿敵である太陽イェルムは、年に一度祝宴を開く。自らの力が伸びゆく夏至の夜こそがその日だ。その夜、神々の隙を突いて、地界より狩人ゾングの大いなる猟犬が地上へと遣わされる。猟犬は、かつてイェルムに焼かれた豊穣の女神コラスティングの欠片を飲み込んでいるのだ。猟犬は地にはびこる太陽神の同盟者たちに追われつつも、部族が住まう地を目指し疾走する。多くの場合は途中で力尽きるが、もしたどり着いたなら豊穣の力を部族の女たちに振りまく。母親たちは出来損ないのトロウルキンではなく、健常な子供に恵まれることとなるのだ。
平均するとだいたい十年に一度。サーターの氏族が夏を逃した年に、ウズは子を授かることとなった。距離が大きく隔たっていたこともあり、長きにわたってこの賜物にウズたちが探りを入れることはなかった。それに欲の皮を突っ張らせることで、この贈り物を失ってしまっては元も子もない。賢きウズはそのように考えたのかもしれない。
しかし、部族が混沌に敗れて安住の地を失い、多くの一族を失って滅びが目前に迫った今、彼らは慎みをかなぐり捨ててしまった。大いなる猟犬の足取りを十数年にわたって辿り、ついにサーターの地へとたどり着いたのだ。
彼らの視点から見れば、サーターの氏族が行っている儀式は、猟犬を追い回し傷つけることで、飲み込んだ豊饒の力を、血と共に大地へと振りまく行為となる。
神託に従い、ウズたちは部族で最も優れた戦士をゾングの代理として猟犬を守るために派遣することとした。滅び行く一族に強き子供たちをもたらすために。