断片の物置、跡地

記憶の断片が散乱するがらくた置き場

Remember Tomorrow

Remember Tomorrow Near-Future Roleplaying
 先日購入したので、概要をさらっと紹介。


 Remember Tomorrow(以下RT)は近未来、いわゆるサイバーパンク世界を扱ったRPGです。
 GMを用いず、2-5人の参加者による即興型ショート・キャンペーンを主要な遊び方としています。
 PCが各々のゴールを目指競争型であり、目的を達成したPCは勝者とされます。しかし、ゲームの指向する方向は、勝者となったPCのプレイヤーを賞賛することではなく、彼らの残した足跡、すなわち群像劇を参加者全員が楽しむことなのです。

プレイヤー・キャラクターと派閥

 RTでは最初に、PCたちの集う場所を参加者みんなで話し合って決め、次に各プレイヤー1体のPCと1つの派閥(Faction)を作成します。
 このゲームにおけるPCは1個人という枠に縛られていません。
 集団から人外まで、参加者の同意が得られるサイバーパンク世界にあり得るものなら、なんでもPCになります。
 つまり、スラム支配を企むギャング団、逃避行中の恋人たち、人間的な感情に目覚めた機械人形、ライバルの排除を望む企業、自我を持ったAIなどをPCに設定できるわけですね。
 なお、何を設定しようとも、データ的な有利不利は存在しません。RTはサイバーパンク世界の人々を初めとする諸存在のありようを描くRPGだからです。
 生ける伝説のようなサイボーグ暗殺者を設定しても、1ターンに3回行動できて防御でダイスを20個振れるわけではありません。


 PCは、「アイデンティティ」「動機」をそれぞれ10個のリストから、選択あるいはD10でロールして決定するところから始まります。
 「装備品」は自由に3つ設定できます。付属のリストで60種類の装備品例が与えられており、そこから選択してもかまいません。ただし、これらは判定で何らかの有利不利をもたらすものではありません。ゲーム内のフィクションを彩り、シーンを組み立てていく上での手がかりとするためのものなのです。
 「パラメーター」は「備え(Ready)」「意欲(Willing)」「能力(Able)」の三つで、ここに12ポイントを割り振ります。最低値は1、最大値は9となります。
 そして、ポジティブ・コンディション(支援、装備、財産、怒りなど、役立つ要素)と、ネガティブ・コンディション(負傷、追われている、迷子、躊躇など、不利になる要素)を1つずつ選択します。
 あとは、動機に関わる「ゴール」を自由に設定してください。親友の仇を討つでも、町から脱出するでも、殺人事件の真相にたどり着くでも、なんでもかまいません。


 派閥は「タイプ」を10種類から選択あるいはロールして、PCと同様に「動機」を決め2つのコンディションをチェックすればできあがりです。PCのパラメーターの代わりに「影響力(Influence)」という単独のステータスを持ちますが、最初は4で固定されています。
 派閥は、最初のPC設定と関係していようが、第三者であろうがかまいません。
 ただし、PCのゴールがNPCと関係するものなら、属する派閥を決定しておいてください。他にもその派閥に属しているNPCが思いつけば、名前を簡単にリスティングしておきます。これらNPCとの対決の際は、派閥の影響力を用います。

プレイ

 RTのセッションは、プレイヤーが一人ずつ「コントローラー」を担当して、シーンを作っていくことから成り立ちます。
 コントローラーは「導入」「取引」「対決」の3つからシーンを選びます。
 「導入」はPCと派閥の登場を演出する、いわば紹介シーンです。ゲーム開始から最初のラウンドはみんな手持ちのPCの導入シーンを行い、次のラウンドは自分の設定した派閥を導入します。これは必ず行わねばなりません。
 それ以降に導入シーンを実行するのは、新たなPCをセッションに導き入れる際となります。そう、RTではプレイヤー一人当たり、何人でもPCを担当できるのです。
 ただし、手元に保持できるPCは常に一人で、その他のPCは「プール」と呼ばれる場に、派閥と一緒におかねばなりません。プールにおかれているPCは、対決シーンで他のプレイヤーに利用されることもあります。


 「取引」は、手持ちのPCを用いて、何れかの派閥と何らかの取引を行うシーンをを作ります。
 これにより、PCはパラメーターを高めたり、コンディションを改善したりすることができます。
 その代わり、派閥の影響力が1増加します。
 派閥は、対決シーンで常に全てのPCが敵対しうる存在なので、強化しすぎないよう注意が必要となるでしょう。


 「対決」は、他のプレイヤーの手持ちPCに対して、何らかの攻撃を仕掛けるシーンを組み立てます。
 これには自分の手持ちPC、プールにあるPC、何れかの派閥、のうちどれか一つを用います。
 手順としては、まずコントローラーと選ばれたプレイヤーがそれぞれその争いにおける目的(選択式)を決め、双方の語りによる演出でシーンをかたどって行きます。
 そうして、実際に対決が必要な状況が発生したなら、判定を行い、成功数で勝者を決定します。勝ったものは、目的と、成功数の差分だけ追加の利益を得ます。また、コントローラーが派閥を用いて勝利したのなら、「エッジ・ダイス」と呼ばれる、いつでも判定に追加できるダイスを1個、プレイヤーが手にします(最大3個)。
 このシーンでのみ、各PCをゴールへと導くチェックが得られる可能性があります。
 相手PCのチェックを消して、ゴールを遠のかせるという妨害も行え、対決シーンを引き起こす大きな動機となりえます。

判定

 RTにおける判定は、10面体ダイスを3つ振り、出目をそれぞれのパラメーターに割り振るというものです。
 当てはめた出目がパラメーター以下なら、成功数に数えられます。派閥やNPCなら影響力以下の出目がそのまま成功数となります。エッジ・ダイスがあるなら、追加して振ることもできます。
 ポジティブ・コンディションは、判定において2つの用い方が可能です。
 判定前に1つチェックを消すことで、自動的に成功を1追加できます。もちろん、何故そのような効果が得られるのかは、プレイヤーが描写できなければなりませんが。
 例えば武装にチェックを入れ、拳銃を所持しているとします。荒事にこのポジティブ・コンディションを用いるなら、拳銃を用いて弾を撃ち尽くしたと言えます。ストリート・キッドと交渉の際に用いるなら、怯えているガキに身を守れるように拳銃を手渡したと表現できるわけです。
 また、判定後にチェックを一つ消すことで、リロールが可能となります。


 ネガティブ・コンディションは、対決シーンの判定に用います。
 勝利した相手の成功数を、相手のネガティブ・コンディションを消すことで、減らすことが可能なのです。
 もちろん、先と同様に理由付けは必要ですが。


 ダイスの出目に同じ数字が合った場合、クロスが発生します。
 次のコントローラーによるシーンは、現在行われているシーンと何らかの関わりを持ったものにしなければならないのです。こうして、PCたちの物語は交錯していくこととなります。

勝者とエンディング

 PCは各パラメーターに対応するチェック・ボックスを3つ持ちます。
 これらは対決シーンを通じてチェックされていき、3つ全てが埋まれば、そのキャラクターは目的を達することができたことになります。そのPCは勝者となってセッションから退場します。
 派閥の影響力が8まで育てば、派閥はその動機を満たし、同様に退場します。その余波に巻き込まれて、再起不能になるPCも現れるかもしれません。
 退場にはもう一つのケースがあります。PCのパラメーターや、派閥の影響力が0になれば、その存在はもうゲームに登場することはありません。ネガティブ・コンディションの「負傷」と「瀕死」の両方にチェックが入った状態で、さらにダメージを要求するネガティブ・コンディションを受けた場合も同様の扱いとなります。


 このようにして、3つの存在が歩み去れば(道連れにされたケースは含まない)、ゲームはエンディングを迎えます。
 1つのエピソードがエンディングに至るまで、数回のセッションが必要となるでしょう。
 単発で遊ぶ場合は、時間ギリギリいっぱいまで遊ぶか、一人が勝利したら、もう1ラウンドだけ行って終わらせることが奨励されています。
 こうやって積み重ねられた世界、物語、登場人物を用いて、新たなエピソードをおこし、さらに物語を広げていくのが、RTのプレイスタイルです。

結び

 RTは、ともすればデータ面やギミックに目を奪われがちな一般的なRPGでは、踏み込むのが難しかったサイバーパンクに含まれるテーマに切り込もうとする、野心的なストーリー・ゲームとの感触を持ちました。
 即興的にシーンを作ることがゲーム中心とはいえ、手がかりを簡潔な形でプレイヤーに与える工夫が為されており、フィクションの構築を手助けします。
 場に形成されるフィクションは、このRPGにおいて最も重要な要素という印象を持っています。
 新たにシーンを形作る上ではもちろん、関係するPCの直前のシーンを考慮しなければなりません。前後のつながりに酷い乖離を生じさせてはならないのです。


 うちのサークルでは中々遊ぶ機会が無さそうなシステムですが、個人的にはかなりの感銘を受けました。
 アイデア、シンプルさ、細やかな工夫がコンパクトにまとまっているからです。
 サイバーパンクをそれなりに愛好する身としては、ルール・ブックを読んでいるだけで様々なキャラクターや情景が思い浮かんでくるので、評価が甘くなっている可能性も捨てきれませんが・・・。
 いずれにせよ、機会があれば是非とも遊んでみたいです。