断片の物置、跡地

記憶の断片が散乱するがらくた置き場

終末の世界に迷う

 Apocalypse World(以下AW)の簡単な紹介を行います。
 AWは現代文明と社会秩序が何らかの理由(戦争、環境破壊、ゾンビ・ウィルスなど)で崩壊し、荒廃した世界で明日をも知れぬまま生き延びる人々を描いたRPGです。
 Dogs in the VineyardPoison'dIn a Wicked Ageなどと同じデザイナーが制作されており、今年の7月発売予定となっております。これまでとはまた異なる方向で、ストーリー・ゲームの追求がなされているのが注目点と言えましょう。


 なお、この簡易レビューは、去年の6月から配布されていた(現在は停止中)プレイテスト版に基づいております。大幅な変化はまず起こりえないでしょうが、正式版とは細部を異とする可能性が高いので、ご了承ください。
#現在でもプレイヤー用のリファレンスはダウンロードできます
 本来は3月中にテスト・プレイを一回やってから紹介したかったのですが、チャンスを逸してしまったため、暫定的に書き出してしまいます。新歓期に向く内容ではないため、4月中に遊べる望みは薄いので・・・。3部で打つ機会があれば、プレイレポをあげる所存です。


1.システムの根幹
 AWの根っことなるメカニズムは非常に単純です。
 行動の成否は2D6+能力値の計を出し、10以上なら「強ヒット」、7-9なら「弱ヒット」、6以下なら「ミス」とします。
 ヒットは概ね成功を指しますが、弱ヒットなら「不完全な成功か、何らかの代償を伴う成功」が発生します。
 ミスは、単純な失敗を意味しません。これは何らかの状況悪化をMC(このゲームのGM)が滑り込ませるチャンスとされ、行為自体を失するとは限らないのです。
 拍子抜けするほど簡単ですね。


 さて、ここからが真骨頂。
 先のロールを伴う行動を、このRPGではMove(暫定的に「手段」と訳)と呼びます。
 AWでは一般的なRPGのように、状況に合致する能力でロールを行わせるような処理を取りません。PCがアクセス可能なMoveは限られております。具体的には基本の8つ+タイプ毎に選択する2〜3が、初期PCがゲーム的な処理に委ねることが可能な行動となる訳です。
 基本のMoveは「危険な状況下で何かをする」「誰かに対して攻撃的な態度に出る」「暴力で何かを掌握しようとする」「誰かを魅惑するか操ろうとする」「緊張した状況を読み取る」「個人を読み取る」「精神世界の大渦に脳を解き放つ」「他PCの行動を手助け/妨害する」となっております。
 これらのMoveはそれぞれ結果リストを持ち、ロールから結果を知る、あるいは選択する処理を行うことができる仕組みです。


 同様に、MCがPCに対してもたらす状況も、全てMove扱いです。
 MCは12+カスタムのMoveを持ち、基本的には状況に適切と思われるものを投入します。「彼らを引き離す」「起こりうる顛末を告げ、尋ねる」「負傷の交換を行わせる」「誰かを困った状況に置く」などがその内容です。
 通常は、PCに対して厳しく直接的なMoveを使ってはなりません。まずは緩めのMoveで地ならしを行い、PCが対応しないのなら、理に適った形で直接的なMoveを投入できます。例えば「よくない未来を告げる」を用いて、『警備員が警笛を吹き鳴らす』と宣言したのに、PCが手をこまねいて何もしないなら、「誰かを捕まえる」を用い『呼び寄せられた多数の警備によって身柄を拘束された』と述べることができます。
 また、PCがロールでミスした場合は、状況的に最も道理の通ったMoveではなく、MCの好みに合った厳しく直接的なMoveを行うことができます。


 ただし、MCのMoveが目的とするのはPCの破壊ではありません。Moveを投入して「じゃあどうする?」と尋ねることで、次なるアクションを誘発し、物語を動かすことなのです。
 基本のMC用Moveはその目的に沿って作られています。
 もちろんプレイヤーがロールを行うことは、ミスにより自らの生死にも関わる状況悪化を引き起こす危険性があります。PCにとって本当に大切なことなら、そのリスクを背負ってでも行動するでしょうし、天秤が自己保身に傾いたのなら諦めることとなるでしょう。
 それはプレイヤーの選択に委ねられています。


2.フィクションの構築
 AWにおいて、重要視されているのが、ゲーム内のフィクションを参加者が共有することです。
 MCのなすべきこととして最初にあげられているのが、「終末の世界をリアルにみせる」「PCの生を退屈なものにしない」の二点なのはこの目的のためと考えられます。
 AWは特にキャンペーンを指向して作られたシステムであり、プレイヤーとMCが一緒に世界を作り上げていく遊び方を奨励しています。
 キャラクターを作成する最初のセッションで、MCは終末の世界の光景を描写し、プレイヤーはそれに合わせた形でPCの生活環境などの細部を埋めていきます。白地図を準備し、みんなで埋めていくことも大いに勧められています。


 フィクションの構築は、プレイヤーとMCがMoveを使う際にも行わなくてはなりません。
 プレイヤーの行動宣言は、先にあげたMoveを使うとMCに告げることではありません。キャラクターの具体的な行動を述べ、結果として用いられるMoveを宣言するのです。あるいは行動を述べることで、MCが何れかのMoveに落とし込み、ロールを要請することとなるでしょう。
 なので、『ショットガンの銃口を、拘束されたチンピラの右瞼に押し当てながら、歯を露わにするニヤニヤ笑いを浮かべる』と描写し、「誰かに対して攻撃的な態度に出る」をロールするのが正しい手順となります。


 これはMCも同じことです。
 MCのMoveは何が起こるか書かれていますが、『それじゃ、Moveによって君たちは引き離された』では味も素っ気もありませんし、MCがなすべきことにも反します。
 MCが告げるべきなのは『ギャングに追い詰められた君たちは、汚染されたどす黒い川を泳いで逃げようとしたわけだが・・・あなたが渡り切って背後を振り返ると、一緒にいたはずの彼女は濁流に呑まれ連中のいる方向へと押し流されている。さて、どうする?』なのです。


 プレイヤーをキャラクターと共感させ、フィクションを強固なものとするため、MCは時にプレイヤーに対して質問が可能です。置かれている状況をキャラクターはどう感じているのか、あるいは不確定だった情景の描写を肩代わりしてもらう、などの方法によって。
 「精神世界の大渦に脳を解き放つ」というMoveは、特にこのためにあつらえられています。精神感応や予知的な力を用いて、その場でまだ明かされていない情報をMCに尋ねるという行動をとれるのですが、成功失敗に関わらず「MCがPCに行う個人的な質問に回答しなければならない」という対価を必要とします。
 こうやって集められたフィクション、PCの行動の結果生じたフィクション。これらはMCが最初に準備したフィクションの上に層を作り、世界を押し広げていきます。


 では、Moveの範囲外の行動はどう処理すればいいのか?
 そう疑問を持たれた方もおられると思います。一般的に、ありきたりな行動や、危険を伴わない行動は、全て成功したとして扱われます。
 その先、すなわち危機的状況でMoveでは扱われていないが、人間が取り得る行動を宣言したらどうでしょう?
 それはルールには記載されていません。おそらくは意図的に。構築されたフィクションに噛み合うものとして、自ずと結果が導き出されるのを理想としていると、僕はとらえています。


3.キャラクター
 AWにおけるPCは11タイプから選択する形式です。
 彼らは目立つ存在ではありますが、スーパーヒーローにはほど遠い立場です。
 名前、性別(男女に限らない)、外見、能力値、独自のMove、所持品、仲間などは全てタイプ毎の選択肢が準備されています。それを選ぶだけであっという間にキャラクターができあがります。
 ここで、簡単なキャラクター設定を作り、プレイヤー間で紹介し合います。設定はセッションを通して明らかになったり、形作られたりする可能性があるため、この時点では十分な隙間を空けておきましょう。
 そして設定を元に、Hx(ヒストリーの略らしい)という、他PCとの過去に絡んだ関係を選べばできあがりです。


 なお、PCの能力値は5種類ですが、そこそこ抽象的なものであり、キャラクターを想像する過程での足枷にはほとんどなりません。
 「クール」「ハード」「ホット」「シャープ」「ウィアード」がそれに当たり、基本のMoveとタイプ毎のMoveではどの能力を用いるか決まっています。


 さて、先ほどMoveに触れた際、難易度などの話をしませんでしたね。
 実はこのRPG、MCが設定する状況の難度は存在しません。そもそもMCはダイスを振りませんし。
 MCが物事を困難にしたいなら、PCが目的とすることを達成するまでに必要なプロセスを増やし、ロールの回数を引き上げるだけで十分です。そしておそらくは、あまり意識しなくても、ゲーム内のフィクションに合ったMoveを投入するだけで十分事足ります。


 PC側がボーナスをもらえるのは、「読み取った状況に沿って行動する」とき、「特殊な装備を所持」しているとき、そして「他PCの手助けが得られた」とき、「特殊効果が発生している」ときです。
 状況的に有利な修正を積み重ねる行為は、このゲームでは意味を持ちません。MCによる危険なMoveの投下を抑止するため、隙のない行動を考えることはもちろん重要ですが、それはロールへの修正という形では報われないのです。
 ペナルティは「他PCの妨害を受けた」とき、「特殊効果が発生している」ときのみ起こりえます。


 PC間で手助けは理解できるとして、妨害とは何事、とお思いになるかもしれません。
 一つは、このRPGにおけるPC同士の関係が、仲間とは限らないことに起因します。明確な敵でなくても、時に利用し合い、時に協力し合う仲であることは普通です。フィクションの積み重ねた先に対決の時が待っている可能性さえあるでしょう。
 もう一つは、このゲームにおいて対抗判定が存在しないことによります。
 能動側がMoveに合わせたロールを行えば、その結果は不可逆的なものとして発生します。相手がPCであってでも、です。
 なので、妨害を試み、成功すれば相手のロールにペナルティを課せる、という処理を行うのです。


 腹を割って話し合える仲間ではないにせよ、やはりこのゲームにおいてもPC間のコミュニケーションは非常に重要です。
 手助けは、2D6+Hxでロールを行うわけですが、10+でなければ手助けする側の身にも危険が及びます。
 つまり、手助けを行うには、相手に対して少なからずリスクを背負う覚悟がいるのです。
 また、特殊なMoveとして、セックスが存在します。
 ほとんどのタイプのキャラクターは、他のPCとセックスを行うことにより、何らかの特典を得ることができます。NPC相手でも効果が得られるとか、ペナルティしか来ないとか、効果を打ち消すとか、例外もあるのですが。


 AWのセッションは、頼るものの少ない荒廃した世界で、PC全員を巻き込む何らかの危機的状況から成り立ちます。
 なので、呉越同舟なシチュエーションや、追い込まれた人々の原始的反応が、お互いを助けるために必要とされ、また力となっていくのは、自然な物語の成り行きと言えましょう。
#新歓期にはとても遊べる内容ではないのがご理解いただけたかと・・・


4.フロント
 フロントとは、セッションにおける危機的状況をまとめたものの名称です。
 1つのフロントは起こりうる状況、巻き込まれるNPC、そして関与する3〜4の脅威からなります。
 脅威とは、PCたちに何らかの形で敵対したり、妨害したり、足を引っ張ったりする可能性のある存在の総称です。脅威は「ウォーロード(手勢持ちの地域支配者)」「グロテスク(ミュータントなどの歪んだ存在)」「地形」「苦悩(病や悪習など)」「獣性(小集団)」に分類され、それぞれ6タイプとそれが持つMoveが記載されています。
 フロントは各々カウントダウンを持ち、時間の経過と共に、PCが介入しなければ状況を悪い方向に動かしていきます。


 フロントはいくつかのステータスを持ちますが、中でも、NPCの行く末や、コミュニティの変遷、重要な選択などを「危機に瀕しているもの」として書き留めておくのが少しユニークです。
 これらはMC自身が決めかねているもの、どうなるのか興味あることなどを記しておき、答えはセッションを通してプレイヤーに出してもらうとされています。


 脅威は、付属のMove以外にカスタムMoveをMCが設定するものとされています。
 例えば「地形:迷宮」なら「誰かを見当違いな方向へ導く」というMoveを標準で持っています。場所を荒廃して崩れているため迷路化した高層ビルとして、次のようなカスタムMoveを設定できます。
 『ここを住処とする肉食カラスの群れを避けるには、ロール+シャープで注意深く行動する必要がある。10+なら気づかれない。7-9なら襲われないが、装備品の光り物を一つ盗まれるか、カラスに気を取られ飛び出た鉄骨で軽い負傷をする(1AP負傷)かを選択。ミスなら、群れに襲われる(3負傷、0装甲)。』
 こういったカスタムMoveを脅威ごとに設定し、必要に応じて投入できるようにすることで、セッションをよりスリリングなものにする訳です。また、思いもよらないものや、興味深いものを作ることで、ゲームをより面白くする効果も期待できます。
 カスタムMoveは、設定したそのものずばりの状況で無くても、理に適っていたり、ロールでミスが発生したときには要求することができます。
 MCはセッション・ハンドリングばかりでなく、ゲームをデザインする役回りも担っているのです。


 一般的なセッションは、2つほどのフロントを準備し、それらが巻き起こす騒動の中でPCたちに行動させることで成り立ちます。
 全てを解決させる必要はありません。PCが勝利する必要もありません。
 結果として、PCを打ちのめしたり、互いに血を血で洗う争いに導いたり、PCを唾棄すべき存在に変えたりしても、それは否定すべきことではありません。
 フィクションの積み重ねを、時折の判断を、コミュニケーションを楽しむことこそがゲームの目的です。


 ルールブックには、MCがすべきこと、してはならないことが注意深く書かれています。一般的なRPGのGMからは頭を切り換えてください。全く別物ではありませんが、ゲームのフィクションを成り立たせるために必要な気配りが存在しているのです。
 また、このガイドは、ストーリー系のRPGをGMする上でもかなり参考になる、まとまった内容です。
 キャラクター作成よりも、この項が前に位置していることから、MCの振る舞いがAWのセッションを成り立たせる上でいかに重要なのかが見て取れます。


#う、やっぱり長くなった。