断片の物置、跡地

記憶の断片が散乱するがらくた置き場

暴力とコミュニケーション

 シゴト、ダルイ。


 インディ系のTRPGの多くは、汎用性よりも何らかの物語に特化したデザインがなされています。そのため、システムからデザイナーの個性や考えが透けて見えるのも面白さの一つだと思っております。
 その中でも最も心に焼き付いているデザイナーはVincent Baker氏です。
 自分が読んだDogs in the Vineyard(若きモルモン聖職者ガンスリンガーが旅をしながら共同体を守る)、Poison'd(史実に近い海賊たちの狂乱に満ちた生き様を描く)、In a Wicked Age(幻想と荒々しさに満ちた剣と魔法の物語を紡ぐ)の三作は、一見まったく異なる内容を扱いつつも、ルールの底に流れるテーマはかなり共通しているように見受けられます。


 それはストーリーの原動力としてコミュニケーションと暴力を突き詰める部分です。
 特にキャラクター(PC/NPC共に)の関係性は、常に短剣を突きつけあうかのごとくです。相手をねじ伏せるルールは用意されておりますが、相手を傷つけるリスクがつきまといます。負けたくなければ暴力をエスカレートさせることができますが、結果は致命的なものになりかねません。そして、コンフリクトには必ず負けを選択するオプション(双方の血の流出を最小限にとどめることができる)がついています。
 キャラクターの目的を追求ためには、他の登場人物と対立せざる得ない状況がままあります。暴力に訴えることは安易で破壊的です。加えて我を押し通そうとすると、他のプレイヤーが協力してくれなくなることも起こりえます。話し合いはノーリスクであり、争いの最中であっても自分が降りることで、妥協点を模索することができます。自然と妥協点を探りつつ、自分の目的成就のために有効な材料を引き出す動きを取り始めることでしょう。PC同士の対立なら特に。
 それでもいつかは、暴力を用いなくては解決できない瞬間がやって来るかもしれません。大抵それは、セッションのクライマックスとなるでしょう。その決断と、結果もたらされるストーリーが、参加者たちに楽しみをもたらすのです。


 もちろん、古いシステムでもこのようなプレイスタイルで遊ぶことは可能です。自分がこれまでに遊んできたTRPGのセッションの中で、印象深かったものは、少なからず上記の要素を有しておりました。けれども、GM、シナリオ、プレイヤー、場の雰囲気などの諸要素、それらがかっちりと噛み合うことは希です。
 それを(シナリオ作成方法も含めて)ルール的に掘り起こそうとするデザインには、目が覚める思いでした。それこそが、惚れ込んでしまった最大の理由です。単に、剥き出しの暴力と正しい道など存在しない不安定さ交錯する雰囲気を、愛好しているだけじゃないのですよ。・・・たぶん。