断片の物置、跡地

記憶の断片が散乱するがらくた置き場

8/30ナイトメアハンター=ディープ

 シナリオの内容とセッションの感想など。

・シナリオの概要
 難病で瀕死になった少女が、無関心になろうとする周りへの憎悪や死への恐怖からナイトメアを生みだし、その力にて長らえているという設定。彼女を見守り支えていた老ナイトメアハンターが死んだことにより、ナイトメアの囁きは再び大きくなり悪夢の世界が現れるという展開でした。NHDに存在するリセットボタン(ナイトメアが去れば目が覚めるように現実が蘇り、なされた害悪は消え去る)設定を逆手にとった思いつきでして、ナイトメアを消し去れば人々を苦しめる悪夢も終わるけど、彼女も死ぬだろうという意地悪な仕掛けです。
 同時に少し前に、家人が癌の切除手術をして、その入院中に感じた孤独感や健康な人々に感じた嫉妬、死が垣間見えることの恐怖を話してくれたこともも少しだけ影響しています。NHDで扱うテーマとしては重すぎるので、使ったのは上っ面のさらに表層のみです。
 いくつか状況の対比を用いてみましたが、表に出ない設定は無意味なので割愛。それでもいつも作ってしまうのは、もはや悪癖の領域です。困ったもんだと自分でも思います。
 初めてやるシステムということもあり、基本はルールブックに書かれているシナリオ構成に沿って作ってみました。ナイトメアウォールを破壊する要素は3つほど準備するも、使い方に注意しないと対象を深く傷つけるように設定。結末はPCが選び取る構成にしましたが、いくつかの推測を立てる程度で細かくは決めておりません。
 シナリオ作成時点での失敗点は、ナイトメアに二つの要素が入り焦点がぼやけてしまったことです。


・セッションの流れ
 集まったプレイヤーは3人。OB、上回生、一回生でした。NHDのルールを知っていたのはうち一人。PC作成は簡単なので作ってもらいましたが、超能力の選択で思わぬ時間を食ってしまい、キャラ作成とゲームの説明と世界観の解説で2時間近くかかりました。基本ルールの他にはR&R掲載の「始まりの物語」を2人が使用し、残りの一人が「夢見の民」を用いました。ナイトメアに取憑かれた対象はハーメルンの資質ありと考えていたのですが、「始まりの物語」表で一人が元ハーメルン、もう一人がハーメルンに恋人を奪われたという設定がついてしまったのが面白かったです。
 超能力の選択で、調査系としてナイトメアに悟られないタイプのを選ぶあたりがしっかりしているなと思ったり。

PC1 高校生 超能力:風使い、治癒
   ディープルート(夢の中では真っ白なハヤブサ)
  孤独な少年時代にナイトメアにつけ込まれハーメルンとなっていたが、
  老ナイトメアハンターの加賀美に助けられる。NHとなり彼を尊敬。
  物静かで友達も少なめ、両親は仕事ばかりで家に帰るのは遅い。
PC2 高校生 超能力:悪夢消し、心傷治癒、残留思念読解
   レジェンド(夢見の民:退魔師)
  神道の流れを汲む古武術の家系の生まれで、宗家の養子となる。
  幼い頃から剣術と退魔の術を仕込まれた。現在は一人暮らしで高校に通う。
  古武術部を立ち上げるもいまだ会員は本人のみ。戦いには日本刀を使う。
PC3 私立探偵 超能力:炎使い、超嗅覚
   レジェンド
  ハーメルンに襲われ恋人が記憶をなくし、憎しみを抱いている。
  帰化した華僑で中国茶に詳しく、高校の研究会で指導も行っている。
  青竜刀を常備しており、夏でも常に長いコートを着ている。

 PC3はギャグにみえますがきちんと理由が。技能で「おいしいお茶を入れる」と、日本刀だとPC2とかぶるため「青竜刀」を選んだ結果、整合性をとるとこうなりましたということで(笑)。オーサーとして鳥巣という希少本を扱う古本屋の店主を設定しました。ここではいつも紅茶と手作りクッキーが食べられ、PCたちがよく遊びに来るという感じに。


 「予兆」は、老ナイトメアハンターでPCの共通の知り合いである弁護士・加賀美の死が知らされるというひと月前のシーンから。ナイトメアとの戦いで命を落としたという設定で、それはPCたちによって退治されたということにして軽く流す。山にある火葬場に同行したPCたちがふと外を眺めると、下の街では変わらぬ日常が繰り広げられている。この辺は完全に雰囲気作りのためのシーン。全員にディープ判定をしてもらい、成功したのはPC1のみ。彼は夢の中に加賀美の姿を見、彼が「彼女を助けなくては・・・」と呟くのを聞く。
 ここから「オープニング」開始。PC2は一人で部活の練習をしているとアカペラ部の練習を聞き、中にクラスメイトである八条泉美の姿を認めて話しにゆく。アカペラ部は大学のサークルと仲が良く一緒に練習している最中だという。また、1年生が一人練習に来ておらず心配だとも。一方PC3は学校側から飼育小屋の動物たちが行方知れずになった件の調査を依頼される。飼育小屋を見に行くと、僅かな血痕と床板に鋭利な刃物でひっかいたような跡。そしてPC1は夢で気になっていた加賀美の後ろ姿を校庭の外れで認める。追いかけたところ彼の姿は見失ったものの、光瀬日向子という少女と出会う。話したところ彼女は加賀美のことを知っている模様。
 そして全員が移動したりしながらアカペラ部の練習しているあたりに至ったところで異変が。突如アカペラの練習に参加していた大学生・日下部の片腕から何本ものメスの先端が突き出る。それは日下部の腕を千々に引き裂きその欠片は吸い込まれるように消えて行く。次ぎに叫び声を上げようとした日下部の喉が同じ状態になり、あっという間に彼は影も形もなく消えてしまう。ビジョンの判定に成功したPCには、チューブを絡み合わせたような物体からメスや注射器が生えており、それが内部から彼を引き裂く喰らっていたことがわかった。見ると日向子がひどく青ざめた顔をしている。アカペラ部を休んでいた一年生とは彼女のことであり、心配した八条とPCたちは鳥巣の店に彼女を連れて行き事情を聞くことに。ナイトメアがらみの事件と思われるし、状況やPC1が見た夢から推測すると日向子が狙われている可能性も十分にあるので、調査を開始することとなる。


 「コンフリクト」に入り、情報はさくさく入ってくる。まず日向子たちを尾行していた男を捕まえると、日向子の叔父である光瀬栄治耦が依頼人で彼女の日常の行動を探っていたことがわかる。送っていった日向子の家で、彼女が2年前に資産家の両親を亡くしており、後見人に叔父がいること、加賀美は父が生きていた時からの(弁護士としての)知り合いでこの家に仕事部屋を持っていたことあたりが判明。家は広く空虚な印象を受け、日向子は幼い頃にプレゼントされたというドール・ハウスに最良の時代を構築している。襲われた大学のアカペラサークル会員である日下部については、サークルの悪しき風習に絡んだ話が入ってくる。どうやら高校のクラブ員を飲み会に連れてゆくことが多く、酒の勢いから周りがはやし立て、日向子に対して告白ごっこみたいなことが行われたらしい。日向子の叔父・栄治耦は東京の方でベンチャービジネスを手がけていたものの失敗、借金で首が回らなくなっているとの情報。2年前に日向子の両親が死んだ際に遺産を受け取り、それを元手に事業拡大に乗り出したとのこと。
 しかし、一日目の終わりにディープ判定させたところ全員失敗してしまい、ナイトメアの狙いをこの時点で垣間見せるチャンスを逸してしまう。
 PCたちは怪しげな動きをする栄治耦の行方を追いつつ、翌日に日向子が出かけた隙を狙い、彼女の家にある加賀美の部屋を探ったところ貸金庫の鍵を発見。銀行に掛け合って調べたところ、日向子の過去に関わる資料が出てくる。2年前に日向子は劇症肝炎で死にかけており、母親から生体肝移植を受けたらしい。直後に起きた日向子の両親の謎めいた死から加賀美が調査を開始して、彼女にナイトメアが取憑いていると見破るも、ナイトメアが現実を歪めることで彼女を生かしていることに気がついてしまった。日向子にハーメルンの資質があったことから、彼女を助けナイトメアに負けぬよう教えて乗り切らせたとの記述。家族の写真などもそこに入っていた。
 その日の下校時、PC1は日向子と八条とともに帰るが、繁華街でチンピラ風の3人組に絡まれる。GM的には尾行調査されていたのに、通学路を変更するなどの対策がとられなかったから襲撃をかけたのだが、情報をぽこぽこ出した割に整理する時間をほとんどとらせなかったこともあり、強引な印象を与えたかもしれないと反省。PC1が超能力を使い撃退して依頼者を聞き出すと、叔父である栄治耦の名前が出てくる。それを聞いた日向子は怒りに燃え、ナイトメアにチンピラを襲わせる。そこにPC2と3も合流するがスピード判定で低い値しか出ず、ナイトメアの妨害もあり日向子を取り逃がしてしまう。捕まらなかったので、日向子は叔父への報復を行うことで完全にナイトメアの言うがままに操られるようになり、翌日の文化系サークル合同発表会でアカペラ部が歌うところで登場、という腹づもり。これは一番ひどい展開かなと考えた直後。
 「優れた嗅覚を使う能力で追いかけます」との一言。そういや、その能力は妨害できなかったんだっけ。というわけで日向子は叔父を捜して駅前を彷徨っているところで発見され、ナイトメアが発現するもPCたちによって撃退され、ナイトメアは日向子の中に逃げ込み彼女は意識を失う。彼女を古本屋に運び、オーサーのアドバイスに従ってPCたちはナイトメアウォールを打ち破る材料探しに出かける。叔父はネットカフェで見つけ出されるも目が尋常ではなく、PC2の術で調べたところ操られている痕跡が明らかに。また、日向子が入院していた病院で当時の様子(生体肝移植後の様態は悪かったのに奇跡的な回復を遂げたなど)や、八条から日向子がアカペラ部に入った経緯などを聞き出す。八条の貸したCDが鍵らしいと知るも、PCが現物確認をすっかり忘れてダイブしたのは内緒。少し駆け足にやり過ぎたかもしれない。


 材料も集まったと判断してオーサーの許可を取付け、ドリームダイブして「ラストバトル」へ。最初の風景はPCたち全員が人形の家に入っており、外から日向子の巨大な瞳がのぞき込んでいるというもの。侵入者に対してケルベロスの格好をした番犬が解き放たれる。二つ目は助けを呼ぶ日向子に対して、両親や彼女が好きだった人々が集まって守ろうとするというもの。その中心にいるのは、ひと月前に死んだナイトメアハンター加賀美である。最後は、病院のベットで肝炎の末期症状を示す日向子自身。よろめきながら這い出して、健康な人々への嫉妬、自らの運命に対する怨嗟を叫ぶ(範囲精神ダメージ)。影のようにまとわりついたナイトメアは、彼女に対して、他者への不信感をあおり立てる囁きを続け、自らの力を使えば死者すらも思いのままに再構成できる、気に入らない生者は殺して再構成してしまえばいいとすら言う。PCたちが説得に出て彼女が迷うと、既に両親をはじめ何人もを犠牲にしている存在であり、引き返せやしないと嘲笑う。(ちなみに、GMのロールプレイ的にはこの時のナイトメアをしている時がやたら楽しかったです。困ったもんだ)
 PCたちは最後のウォールで大きなダメージを負うも、アカペラ部の練習時の音をドリームイメージで作り出し説得することに成功。CDを忘れたための苦肉の策だったが、逆に話としては上手くまとまった感じに。ナイトメア・ウォールは全て崩壊し、彼女の生死についてプレイヤーに何か行動するのか聞いてみたところ、PC1が「身体の負傷を癒す能力のところに、達成値40以上で医学では不可能な治療を行える、とあるんですが」と提案。気がついていなかったけど、あまりにぴったりだったのでもちろん許可。PODを大量に投入するも、ロール結果は37。「宿命を使った振り直しはディープレベルの回数までだから、あと2回は判定できるね」と言いつつ、助からなかった場合を考え始める邪悪なGM。2回目も37で失敗。そして運命の3回目、見事に46を叩きだす! ぎりぎりのダイスロールに委ねられるこの展開はなかなかに盛り上がりました。超能力の選択では治療系は一切薦めなかったし、それも含めて偶然とプレイヤーに救われた感が強いです。
 「エンディング」は翌日の文化系クラブ合同発表会。PC3は学校からの依頼が悪夢の消失と共に消えてしまい、報酬も受け取れなくなるというコメディ調。PC1と2はアカペラ部の演し物を聞き、その中に日向子の姿を認める。彼女はPC1に気がついた様子だがどこまで記憶にあるのかはわからない。やがて発表が終わり、控え室に引き上げていった彼らを、PC2が引っ張る形でPC1も追いかけるという幕引きでした。「彼女があなたのことを覚えているかはわかりません。しかし、この再会あるいは出会いから新たな物語が紡がれてゆくことでしょう」という感じの締めで、なんとなくきれいにまとまりました。


・反省点など
 ナイトメアの目的と行動が多岐に渡っており、わかりにくかったことは完全に構成上の欠陥です。セッション時間は2時間50分であり、これはオーサーのアドバイスを多用することによって調査をさくさく進めたことが大きいと考えられます。ただし、多用しすぎた(調査先で迷ったらすぐにオーサーを通じて選択肢を提示した)ので、やっているゲームマスター自身が強引だなと感じてしまいました。結果として感情移入も薄くなったと思われます。構成をもっと単純にして、プレイヤーの遊ぶ余地を増やし、エモーショナルな部分を刺激していくのが正しいのでしょうけど、それをやるとシナリオがほぼ完全一本道になりそうなので、避けてしまいました。まだまだ未熟だなと実感する次第。
 PCたちがうまく立ち回った結果として、いくつかの悲劇を回避できる展開になったのはいい点・・・なのかな? ただし、ナイトメアハンター=ディープは調査の過程で主要NPCに収斂してゆく展開の方がPCの目的意識が明確になって、やりやすい気はします。わりあい普通の調査ものフォーマットで組んだのは良かったのかどうか。


・ナイトメアハンター=ディープ
 システムは軽くて使いやすいが若干直感的にわかりにくい部分が見受けられます。プレイヤー・キャラクターには動機を自分で作って動いてもらうぐらいの方がやりやすいかもしれません。PCにモラルを求めるとかいうレベルじゃなくて、性善説を採っているために、プレイヤーのタイプによっては遊びにくいかもしれません。世界観はイメージ重視で良いと思うのですが、現代世界を舞台にしている分細部のぼやけが時として扱いにくく、突っ込み出すと困る部分も出て来ます。アヤカシが時代劇的な江戸に舞台を移したのは、その辺にも理由があるのではないかと勝手に邪推したり。
 好きな部類のゲームではあるのですが、遊んでいて自分が昔の純粋さを本当に失っているなと自覚せざるえなかったのが、システムの力をもっとも感じた瞬間でした(笑)。次回やる時は、シナリオの奨励フォーマットは無視して組み立てることになるでしょう。