断片の物置、跡地

記憶の断片が散乱するがらくた置き場

『闇の公子』復刊

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 9/5に解説追加と表紙入れ替えで復刊のようであります。というか絶版になってたのね、このシリーズ。
 妖魔の王アズュラーンが人の世になす災いの数々をえがいた連作集であり、前の物語の欠片から次の物語がふくらみ、やがて収束してゆく様は見事としか言いようがありません。タニス・リーの作品は90年代以降のものは個人的にいまいちなのですが、70年代終わりから80年代半ばは、強烈な幻想性と裏に潜む残虐さ、そして狂気の輝きに充ち満ちており、『深淵』などをゲームマスターする際は常に念頭に置いています。ちなみに最初の8ページ(『一 地底の人間』)だけ見て投げ出すのは損ですよ、とだけは主張しておきます。そういう展開なのは最初の8ページだけなので・・・。

 他の者は宝石を見て渇望した。だがカジールは指先を通してのみ見、それも独特の不思議な力を用いてであった。一瞬息を詰め、それからこう言った。
「地底で流された絶望の涙が七滴、女である花が流した涙が七滴」
 その時、カジールは全てを知った−首飾りの血腥い物語のみか、それ以前に起きたこと、鍛冶場で金槌をふるった小さなドリンや、アズュラーンの園の蚯蚓パクヴィのことまで。そして、それら全てにも増して、地底の湖のほとりでシヴェシュと太陽のために泣いた花の子フェラジンを知ったのであった。