断片の物置、跡地

記憶の断片が散乱するがらくた置き場

リアリティの重視

 自分のプレイスタイルでは、システムの背景世界によるリアリティには割と気を遣って遊びます。もちろんすべての世界観を把握することなんてできないし、ゲームマスターやシナリオの方向性(調査もの、コメディ、ストーリー重視等々)やプレイヤーの面子によっても変化するため、ある程度のステレオタイプをもっておいて参加者をみつつ調整していくことにしています。ステレオタイプは、エピック・ファンタジー、ライト・ファンタジー、現実の中世、ビクトリア朝、1920年代アメリカ、現代、サイバーパンク、スペースオペラあたりの基本的な像を頭に入れているつもりです。あくまでも「つもり」であり、がちがちに突き詰めているわけではありません。
 利点は、世界観に一致した行動をとったり、セッションの雰囲気を維持することができる点でしょう。例えば前日に起きた殺人事件を調査することになった場合、現代なら警察の検死記録を入手しようとするかもしれないし、中世の都市ならあたりの浮浪者を脅して何か知らないか聞き出そうとするかもしれないし、魔法の強いファンタジー世界なら死者と話ができる呪い師を雇うかもしれません。そういった世界観に沿った行動なら、たとえ想定外であってもゲームマスターも動的な処理が行いやすいと考えます。遊牧社会で法医学的証拠を探したり、現代で何の前触れもなく霊能者を雇って死者と対話する、なんて言われるとGMも困るでしょうし、下手をするとセッションの雰囲気をぶちこわしてしまうかもしれません。シナリオはホラーであってもプレイヤーが大笑いしている図は普通にあることですが、セッションで起きた出来事があまりにその世界において現実離れして珍妙だったら、シナリオそのものがホラーじゃなくてコメディになってしまいます。できうるならばそれは避けるべきでしょう。
 雰囲気の重視という点から、うちのサークルは文化として、プレイヤー情報とキャラクター情報を分けることを奨励しています。そのためキャラクターが知らないはずの情報に基づいて行動するのは良いこととはされません。たとえば、PCが分かれて情報収集を行っている時、あるPCがとあるNPCが黒幕ではないかという情報を得て、(ゲーム的な処理で)次に別のPCが該当NPCと別件で対話することになっていたとしましょう。該当NPCと話をするPCのプレイヤーは疑惑を抱いていても、(同時行動だから)PCはその情報を得ていないため疑ってかかる行動はとれないわけです。なのでキャラクターの持っている情報と世界のリアリティに矛盾しないように、プレイヤーの目的を達成する行動を考えることになります。一種パズル的な面白さもあります。(常にうまくやれるものではないし、情報を完全に分離することは不可能なのですけどね)
 副作用として、「なんでもあり」の世界観だと逆になにをしていいのかわからなくなったり(というよりどこまでやっていいのか許容範囲がわからず不安になる)、妙なコダワリが生じてしまうことがあげられるでしょう。また、PCの行動にある程度の理由付けや背景世界に一致した設定を考えてしまうため、いい加減な動機やお約束の展開だけでは動きにくくなります。その辺が、『ソングシーカー』がTRPGの本質の一部には触れている気はするけど、自分のスタイルではその道はとれないと考えた所以です。あの本で描かれる展開はリアリティがあまりないし、プレイヤーとキャラクターがほぼ同一だからです。ただし、自分の遊び方でも、別の入り口からだけどTRPGの本質にはアクセスできていると思います。TRPGを長く遊び続けている人のほとんどが自分なりのやり方で鍵を見つけているはずなので、先にあげたのは一つの方法に過ぎません。どの方法が優れているとかいう話ではないので誤解なきようにお願いします。