断片の物置、跡地

記憶の断片が散乱するがらくた置き場

戻れない領域

 そういえば先週は、サークルの部室からローズ・トゥ・ロードのリプレイ『ソングシーカー』を借りて空き時間にぱらぱらめくっておりました。せっかくなんで、感想もどきを書かせていただきます。相変わらず上から目線かもしれませんが、ご容赦のほどを。


 最初、部室の本棚に収まっていたこの本を手に取り、帯のあおりと最初の数ページに目を通した時、きっと嫌いなタイプの本だろうと直感しました。ゲームの世界観やルール説明より読み物としての側面を押し出しているように映ったし、またプレイヤーにTRPGを遊んだことのない声優や役者のタマゴを用いるというあざとさが、ひどく鼻についたからです。
 ただ、読み進めて少し面白いなと考え直しました。プレイヤーは本当に初心者でRPGにおいて何ができるか、何をすれば有用なのかを知らないし、ゲームマスターはそれに振り回されてしまうという展開だったからです。よくある売るために編集されたリプレイとは違い、その噛み合わなさを素直に収録しているようにみえました。また、ゲームマスターは本来もっとうまくやれているはずなのに、(リプレイ起こしする際に)わざと愚痴や失敗を挟み込んでいるとも感じました。かいぶりすぎかもしれないけど、自らもプレイヤーに合わせて初心者ゲームマスターを演じているかのように思えてならないのです。手に取った初心者に「ゲームマスターは特別な存在ではないし、セッションが思いもよらない方向へと流れることはよくあります。それに、プレイヤー同様によくよ悩んだりするものですよ」というメッセージを伝えるために。
 だから最初の展開は、かなり一本道なシナリオの中でプレイヤー・キャラクターを追い込み、それをプレイヤーが強引な理屈とダイス運で突破するという感じになります。シナリオがPCによる想定外の動きで破綻して思いもよらない向きに進んでいくのは、実際にTRPGを遊んでいるとよくあることです。むしろTRPGの本質的な面白さの一部だと考えています。(だからプレイヤーはマスターに協力してセッションを淀みなく進めるべき、という考え方は気に入りません。が、それはまた別の話。)
 後半の展開に心動かされることはありませんでしたし、ユルセルーム世界のとある重要人物の解釈は一部で反発を招くだろうなとも思いました。それでもこの本はTRPGの本質に僅かなりとも触れているし、一つの小さな物語世界を構築するおもしろみを垣間見させてくれます。同時に、TRPGに慣れて世界観やキャラクター性を重視するプレイスタイルを身につけてしまった自分は、昔に捨て去った懐かしいものを見た気がしました。PCの、というよりプレイヤーの行動は著しく合理性を欠くし、世界観を軽く扱いすぎているし、ゲームマスターも材料をほとんど与えないままに考えさせるというあまり褒められないスタイルをとっています。それでもなお本質に近い何かを掘り当てることに成功しているのです。
 私はこの本でとられているRPGのスタイルを褒めないし、真似してみようとは思いません。というより、無駄にTRPGに関する知識や論理を血肉とした今となっては、決して真似できないでしょう。しかし、決して戻ることのできない昔日に置いてきた、楽しみへと至るための鍵を内包しているため、当初考えていたような否定的な感情を抱くこともありませんでした。・・・まあ、だからといって人に読むことを薦められる本かというと、非常に微妙なのですが。